ぐるりと部屋の中を見渡す。
背後で倒れている悪魔ではない。それ以外の何かの気配だ。


「…まだ、何かいます?」
「“何か”がな」

正体がつかめず、それでもどこからか感じる視線に顔を見合わせた。

任務の目的である悪魔はすでに倒した。救出対象もすでに危険区域を出ているはずだ。与えられた任務は一応完了している。


違和感を放置し任務を強制的に終えるか、調査を続けるか。その二択の答えはすでに決まっていた。


「行くぞ、なまえ」
「はい、アイオロスさん」

銃弾の予備を確認しながら、すぐにアイオロスさんの後を続く。


何か気がかりを残し、処理班を呼ぶわけにはいかない。
処理班の人間はほとんどが非戦闘要員で構成されている。彼らを守るためにも中途半端な任務の切り上げは許されない。


「でも…、どうします?」

相手の正体も場所も知れない。


アイオロスさんを仰ぎ見ながら問いかける。
彼は一瞬黙り込んだ後に私を見て人差し指を立てながら提案した。


「相手の居場所も正体も分からないが、こそこそと隠れている雑魚相手に手間がかかるのも面倒だ。いっそのことこの廃ビルに火をつけて…」
「無理です」
「冗談に決まっているだろう、そんなに真面目な顔をしてくれるな」
「…え、ちょ…っ、ちょっと、アイオロスさん?」

目を細めたアイオロスさんに銃口を向けられる。

なんだ?否定したからか?だから今から私の額の風通しが良くなることが彼の中で決定してしまったのか?

そんな馬鹿な!

私はそう思うが、銃口はだんだんと額に向かい、そして




通り過ぎた。


私の頭上へと銃口が向いた瞬間、アイオロスさんが間もなく引き金を絞る。
すぐ近くで聞こえた大きな銃声に反射的に身が竦んだ。喉の奥に何とか悲鳴を押し込み、呆然としながらもアイオロスさんを見上げる。

「なっ…なにをっ」
するのですかと続けられるはずだった言葉は飲み込まれた。

背後で短い悲鳴が聞こえたためである。

肩越しに勢いよく振り返ると、窓からこちら側へ倒れこむ青年の姿。先ほど、ここから逃がした保護対象のはずだ。倒れこんだ彼の体から勢いよく鮮血が溢れだしたのを見てアイオロスさんに向き直る。


「…なんてことを!!」

慌てて応急処置をするために駆けつけようとした私の腕をアイオロスさんが掴む。「状況観察を怠るな」そして私が手とその言葉を振り切るより早く、倒れこんだ彼にアイオロスさんはさらに銃弾を撃ち込んだ。

普通の人間なら、怯み、判断に悩んでいる間に撃ち殺されるだろう銃撃。

しかし、彼は顔をあげた瞬間、近くに倒れこんでいた悪魔の体を盾に身を守った。一般人だとしたら信じられないほどの状況判断能力と行動力、そしてあまりに素早いその身体能力に気が付く。彼は、違う。

2/5
*
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -