カミュのたった一言が、私のその決意を粉砕したのだ。
彼の言葉は素直に嬉しいと思う。
絶対に嘘をつかない、誰よりも真っ直ぐな人だから、余計に。口で伝えることのできる愛と、行動で示す愛があるけれど、この人のそれはどちらも信じてしまう。
私、彼に愛されているんだ。
それは、夢での衝撃を遥かに越え、私に直接の影響を与える。
自分の頬が熱くて仕方がない。心臓も、うるさい。それに本格的にくらくらとしてきた。そんな私にカミュはなおも止めを刺す。
「好きだ、なまえ」
「…っ」
頬に手を添えられ、上を向かされる。カミュと目が合うと、そのまま髪を梳かれた。大きな手が、髪をするすると梳いていくのが心地良い。だが、
「愛している」
「も…、もういい、よ」
恥ずかしくて、嬉しすぎてどうにかなってしまいそうだから。
カミュの髪の赤、鏡に映る私の頬の赤、カミュがいつも纏う黄金、私がいつも着る白、青空、花、草、今この瞬間も世界は色に満ちている。
鮮やかなそれが、瞼の裏でちかちかするほどに鮮烈に私の目に焼き付く。
一瞬、一瞬を逃さないように。彼といられるこの時を忘れることがないように。
再び頬に添えられた大きく節くれだった手に、私の手を重ねた。
「わ、たしも、カミュが好き、だよ」
ぽつりと吐露した心情。
温かな赤と、柔らかな笑みが、そこにあった。忘れたくないほど、綺麗な笑顔に一瞬見惚れる。不思議そうに私の顔を覗き込んだカミュの胸に、私はそのまま頭を預けた。
とくんとくんと規則正しい音を伝えるそれに目を伏せた。そうすると、恥ずかしかったことや色々なことがどうでもよくなる。そしてそれと相反するように高まる気持ち。それは私の恐らく根本にあるもので、私はその気持ちに従うことにする。
ただ黙りカミュの背中に手を回す。とくりと一瞬早くなったように感じた彼の鼓動や暖かな体温に、だらしなく緩んだ頬はそのまま放置。
そのままさらさらと髪を梳いてくれる彼にされるがままになって、ぼんやりと考える。
ああ、
やっぱり私はこの人が好きなんだ。
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