その言葉よりも、その声こそがどこか不安げに聞こえて顔をのぞかせた。目があったカミュが小さく息をつき、私の隣に腰かける。すっと伸ばされた手に頭を撫でられ、子ども扱いかと唇を尖らせれば彼は僅かに頬を緩ませた。
「……?」
「大切にしようと思っていたのだが」
不安にさせてしまったらしいと申し訳なさそうに言ったカミュに私はとにかく必死で首を振る。
「大切にしてくれているよ!カミュはすっごく!」
それこそ私なんかが文句をつけられるようなものではない。だから私は決して不安ではなかったのだ。
カミュは私の言葉を黙って聞いていたが、数秒後に黙ったまま私を抱きしめた。そんなことをされるのは初めてのことで、混乱の中でも心拍数が異常なほどに上がる。このままいくと、私の心臓は爆発しちゃうんじゃないか、なんて思うくらいの早鐘だ。
それでも、やっぱり嬉しい気持ちと幸せな気持ちが、それ以上に胸の中に湧き起って私はそのままカミュの胸に頭を預けた。暖かくて広いそこで、カミュの香りを胸いっぱいに吸い込む。変態みたい、なんて思いながらも、初めての経験が幸せで頬が緩んだ。
そして思う。
好き、なんて言葉はやっぱりいらないかも。
だって言葉がなくても、カミュが私のことを大切にしてくれているのは分かるし、愛されているということも感じる。カミュがこんなふうに抱きしめるのは、きっと私だけ。それで十分だ。言葉は、カミュの分を私が彼に伝えれば良い。
「カミュ、すごく好き、大好き」
カミュはその言葉にもっと強く抱きしめてくれた。
これ以上抱きしめられたら、本当に私は消滅する。というより、消滅しても良いくらい幸せだ。
やっぱり、言葉なんていらない、そう思った刹那。
「私のほうが、なまえを想っている」
「は、」
それはあまりにも突然の言葉だ。心の準備なんてしていなかったから、私はそれを理解するのに少々の時間を必要とした。さらに、その言葉を理解した後も、いや、理解したからこそ私は硬直する。
なんてことだ。
先ほど、言葉なんていらないと思ったばかりだったのに!
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