赤く情熱的な瞳が私を見つめる。
彼の薄い唇が少しだけ開き、そしてその言葉を告げた。


「なまえが好きだ」
「……っ!!!」


飛び上った瞬間、眼の前に飛び込んできたのは簡素な部屋だった。


先ほどまで目の前にいたカミュの姿など髪の毛一筋すらない。私を見つめた瞳も、好きだと、その言葉を吐き出した声も、ここにはない。

開け放たれた窓から、昼時の穏やかな風が吹き込んだ。白いカーテンをさらりと宙に靡かせ舞わせたそれが、私の頬を撫ぜる。

ひんやりとしたそれを感じた途端、現実を認識し、自分の頬がかっと熱くなったのを感じ両手で覆った。


「や、やだ、夢?」


恥ずかしい。


恥ずかしい!



恋人のカミュが、初めて私に好きだと言ってくれたのは、彼が私に告白してくれた時だ。


それ以来、彼は私にそう言った言葉を囁かない。
あまりそういうことが好きではないのかもしれない。カミュは優しいしそれに紳士的だ。私はカミュに何も不満はない。


でも、だからこそあんな夢を見るとは思ってもいなかった。

なんだ、私、どうした、私!
まさか欲求不満なのか?
しかしそんなことはないとも思う。だって私はなんのカミュに対し、不満もないのだから。

だがしかし、私はあんな夢を見てしまったのだ。

「…うー」

夢の中の出来事だったのに、心拍数は上がったままで頭を抱えて枕に顔を埋めた。
こんなことならシエスタなんかするんじゃなかった。
久しぶりにシエスタをしたと思ったら、これだ。

変な夢を見てしまったせいで、カミュと上手く接することができなくなったらどうしよう。
それに、なんだかカミュにも申し訳ない。勝手に変な夢を見てしまってごめんねと謝りたいくらいだ。

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