馬鹿な、そう思うのに、私の耳は確かに彼の声を聞きとったのだ。聞き間違えるなんてありはしない。しかしまさか、ここはまだ白羊宮の前ではないか、そんな僅かな希望を込めて視線を白羊宮に向けたが、そんな些細な希望はミジンコレベルに木端微塵にされた。

「カミュ、どうしてここに」

白羊宮の中からカツカツと靴音を響かせ、姿を現したカミュの眉間に寄った渓谷のような皺に眩暈を感じた。
恐れていた事態が、まさかこんな十二宮の始まりで起こるとは想像もしていなかった。ムウは一体何をしているのだろうかとか、どうしてカミュが白羊宮から出てくるんだとか、そんな疑問はどうでもいい。

彼が眉を顰め、口を閉じたまま私とミロを見た瞬間、頭の中まで真っ暗になった。


見られた。


絶対、絶対絶対百パーセント今の彼は勘違いしているに違いない。
何がって、そりゃあもう、私とミロの仲を、だ。とうとう友人の枠を飛び越えてしまったのかとか思っているに違いない。やめて、勘違いだよ、カミュ。私が大好きなのはカミュだけなのに。

私はそれを言わなければならないと思った。しかし私の口はぱくぱくと動くだけで言葉を発さない。口も舌も職務放棄をしないで働いてくれ!

慌てて助け舟を出そうとしてくれたのか、ミロがカミュを見上げる。

「おい、カミュ!話を…」
「黙れ、ミロ」

ぴしゃりと言い放ったカミュに動悸が早まる。これは相当マズイ。あのいつだって落ち着いているカミュが怒っているらしい。
その事実に驚愕する暇はない。ただ何と言ってその誤解を解くべきか、私の頭はフル回転を始める。しかし、それに良い結論が出される前に、カミュに腕を掴まれた。

なんてことだ、はたから見たら捕らわれた宇宙人の絵ではないのか。
左右を背の高い男に囲まれて腕を引っ張られるのは中々恐ろしいものだ。しかし、三人そろっているこの場だからこそカミュの誤解を解けるのではないか。それが女神のお与えになったチャンスに違いない!そう思ったのだが、

「ミロ、その手を離せ」
「ああ、もちろんだ」

ぱっと離された腕に、薄情者と叫びたくなる。ミロは私のことを切り捨てたのだ!この分でいくと、叱られるのは私なのだろう。
振り返って助けてくれと目で訴えた私に、ミロはにっと笑みを浮かべ「がんばれ」と口パクで言う。何をがんばれって言うんだ、何を?
私一人、カミュにみっちり怒られろというのか。やっぱり薄情者だ!そう思ったとき、ミロは今度こそ声に出して言った。

3/5
*
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -