「アテナ」

長い長い金色の髪が風にゆられる。すっかりと弱弱しい光しか抱かなくなってしまった瞳が、それでもしっかりと私を映しだす。不思議なことに涙を流さないはずの神である彼女の瞳からは、大粒のそれが留まることなく溢れていた。

それが何を意味するのか、私にはよく分からずただ立ち尽くす。


「パラス・アテナ」

かつて凛としてよくとおった声は、震えていた。


青空を春の強い風に流されていった雲が地平線の果てに消える。
広がる山郭地帯を強い風がもう一度吹きぬけて行く。
ごうごうとしたその音と、揺られた草木の音以外何も聞こえないその場所で、彼女はその身をふるりと震わせて、もう一粒の涙を落した。

その背にあったはずの、輝く真珠色の翼は付け根に痛々しい傷跡を残すだけで跡形もない。


「ごめんなさい」


ごめんなさい、アテナ、ごめんなさい、ごめんなさい


今も鮮明に思い出すその場面、そして泣きながら謝る彼女の声、すでに私を映さなくなってしまった瞳も、何もかもを、


懺悔のように繰り返されるその言葉を聞きながら、私は泣き崩れた彼女を見下ろしていた。


(遠い遠い昔のこと。)

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