体温の高いヘルメスに抱き着いていると、ふいに振り落とされた。
勢い余って地面に転がり落ちる。

「おっと、ごめんよ!勢い余ってつい」

ひっくり返った私に手を伸ばしてくれた彼の手を取って立ち上がった。

周囲を見渡す。


不思議な場所だった。
雲の上。それは半分正解で半分間違いだった。雲の下にはどうやら地面があるらしい。地面の上に薄い霧がはっているような状況だろうか。ドライアイスを思い出して納得する。

永遠と雲が続く地平線。時折建っている柱に蔦がまきつき、空がいつもより近い。


きょろきょろとあたりを見渡しているとヘルメスが私の頬を引っ張った。

「ちょっと、聞いている?」
「いひゃいへふっひいへはふ!」
「ねえ、何がしたかったの、君?馬鹿なの?馬鹿なんだね?何故僕のテレポートについてきたんだよ!面倒くさいけどしょうがないなあ!君を連れてこいなんて言われていないから、しょうがないから聖域に送り返してやるよ!!」

そう言ってまた小宇宙を高めてテレポートをしようとしたヘルメスの手を取って首を振る。

「良いんです!!」

はっきりと言った言葉にヘルメスが目を丸くして首を傾げる。

「ここが、天界…ですよね?」

雲が広がるこの場所が、地球上に存在するのか、それとも聖域のように隠された場所に存在するのかはよく分からなかったが、恐らくそれは正しい。ヘルメスも頷いた。

「…そうだよ」
「ヘルメス、私を連れて行って下さい、オリンポスの神々のもとまで!」


戦いを未然に防ぐ方法。

私が思いついた唯一の方法。
話い合いだ。まるで小学生のような方法だが、私に思い付いたのはそれだけだった。MADの状態をたとえ作り出したとしても、聖域には限界がある。オリンポスに対してそれは長続きしないだろう。それにまさか冷戦のような状態になることは恐らくどちらも望まない。

では、勝利の女神という存在で戦略的防衛か?オリンポスは私みたいな雑魚のことなどまるで気にしないに違いない。それも効果を持たないだろう。

戦闘はいずれ起こる。

だから直談するしか、もう私には何も思い浮かばなかったのだ。


「ゼウスと話をさせてください」
「できるわけないだろ!オリンポスの神々が君みたいな人間に会うものか」
「そう言わずに!!勝利の女神の小宇宙ならここにありますから!」
「嫌だ!よしてくれよ!!勝手に連れて行ったら怒られるのは僕じゃないか!」
「一緒に怒られてあげますから!!」
「ふざけるなよ、何様だ!」

無理にテレポートしようと小宇宙を燃やし始めたヘルメスの腕に掴み掛って無理やりニケの小宇宙を流し込む。僅かに乱れたそれにヘルメスが思い切り顔を歪めた。

「…勘弁してくれよ!」


そんな風にヘルメスは永遠と嫌がっていたが、あんまりにもしつこく頼み込んだ私にやがて折れた。

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