もはや煩悩の塊は私にもどうしようもなかった。

シャカに説法してもらったって気が付くと別のことを考えてしまっているのだ。これはもう修行をしてよく分からないが徳の高い人にならなきゃこの想いはどうしようもないに違いないと処女宮を出た。

そのまま教皇宮に向かうことにする。

それにしても、修行をした徳の高い人にはどうなればいいんだ?

お坊さん…?出家?ギリシアで出家ってできるのか?この場合ギリシア正教徒になるのか?正教徒って修行するの?駄目だ、何も分からない!

だがともかく修行と言ったら、旅に出たり滝に打たれたり…、…滝に打たれればいいんだ!そうだ、それが修行に違いない!
そう思ったとき、目の前を童虎が通り過ぎて行った。

「童虎、ちょうどいいところに!!」
「なんじゃ、なまえか」

こちらを振り向いて茶目っ気のある笑みを浮かべた童虎の手を取る。彼は少し驚いたのか目を丸くしてこちらを見て私の名前をもう一度呼んだ。
そんな童虎を見上げる。

「紫龍君が、五老峰ってところで童虎のもとで修業したって言っていたんだけど!」
「ふむ、その通りじゃ」
「それで、五老峰には滝があるんだって?」

あるがそれがどうかしたかと首をかしげた童虎に半ば掴み掛るようにして頼み込む。

「連れて行って!!」
「観光かの?」
「というより滝に打たれて修行をしなきゃいけないの!」

そういえば、彼は目をぱちぱちさせて私を見た。

「なまえでは五老峰の大滝で打たれ修行をするのは無理じゃろうて。死にたいのなら話は別になるが…」
「死ぬ!?そんな滝なの!!?」
「大瀑布とも言われておる」
「く…っ、計算外だった…!!」

大瀑布とも呼ばれるような滝に打たれたら死ぬ自信がある。そもそも近づける気もしない。五老峰の大滝がどのようなものかは知らないが、イメージはナイアガラの滝だ。…うん、潰れて死ぬ自信がある。

「…魚のエサにはなりたくないからやめておくよ…」

そう言った私に、童虎はそうした方が良いと言って頷いた後に首をかしげる。
「何故いきなりそんなことを?」
「煩悩をかき消すために修行の旅に出ようと思いまして」

そうだ。このサガに対する淡い恋心を淡いうちに消してしまわないととんでもないことになる!
取り返しがつかなくなる前に消してしまわなければいけない、のだ。

まだサガと友達でいたいから。
サガとこれからも一緒にいたいから。

昼食の時にサガに触れた指先を握る。じわり、じわりと熱いのだ。ひょっとしたらもう手遅れなのかもしれないけれど、まだ期待はあると信じている。

「滅煩悩!」

そう叫んだ私に童虎は朗らかな笑みを浮かべて「なんだかよう分からんが、目標が叶うと良いな」と言って歩き去って行った。
滝に打たれる修行はどうやらできそうにないが、何かほかの方法を探すことを決意し、私もその場を駆けだした。

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