なまえのことが好きだ


私の耳がおかしくなったのでなければ、サガは確かにそう言った。
好き。好き!サガが、私のことを好き!!!

いやいやいやいや、違うから、友達的な意味に決まっているから!だから落ち着いて私の心臓!!!ばしばしと胸を叩く。くそっ、ただでさえぺったんこなまな板が抉れたらサガのせいだ!

ばっしばっしと手を動かし続けているとその音に訝しげな顔をしながら宮の奥から出て来たアフロディーテと目があった。

「なまえ?それはゴリラの真似かな?」

ゴリラの真似ってなんだ。
馬鹿にしているのか。そういえば小学生のころ辞書でゴリラと引いて出て来た“ギリシア語で毛深い女の意”というやつに爆笑していたが…。
正確にはそれは間違いなのだが、それはさておき!
まさかあのころは大人になってギリシアに来ることになるとは思っていなかった。ってそんな話をしているのではない!

アフロディーテも女子に対してゴリラはないだろう!もう少し…、オブラートでなくてもいいからせめて濡れたトイレットペーパーに包んだ言葉を投げかけてほしいものだ!

「心臓を叩いているだけ!!」
「なんでまた」
「止まって、私の心臓!!」
「ああ、自殺か。協力しよう」
「別に死にたいわけじゃないからね!」

薔薇を取り出したアフロディーテに慌ててそう言えば、彼はくすくすと笑って冗談だと言った。

「それにしても顔が赤いが、どうかしたのか?」
「なんでもない!なんでもないから!」

そう言って彼のもとから走って逃げる。
とりあえずそうだ、まずは木陰とかの誰もいないところに隠れて顔の火照りを抑えるべきだ。


(なまえのことが)

うわあああ!

(好きだ)

うわあああ!!ふじこふじこ!
思い出さないで、私の脳!普段は重要なことからぽんぽん忘れていくくせに、なんで今日はやる気なの!あの瞬間のサガの顔も、声も全部覚えている。これが記憶力の本気ってやつか。

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