カタリとペンを置いて頭を抱える。
日本から財団関係の資料を持ち、様子を見に来てくれていた辰巳が心配げな顔をした。

「お嬢様?」
「…辰巳、紅茶を」
「はい」

足早に立ち去った彼の足音を聞きながらシオンに渡された経理書類に視線を落とす。

聖域の財政問題だ。

非常に難しい問題であることには間違いない。
聖域は貧しい。発展途上の国と同じ、またはそれよりも貧しい。先進国と同じレベルにまで裕福にする必要があるとは言わない。しかし、食事もままならない訓練生がいるらしいことをなまえに聞き、とうとう見過ごすことのできるレベルではないということを思い知ることになった。


「………」

カツカツと人差し指で机をたたく。戻ってきた辰巳がそれを見てどうかしたのかと問いかけてきた。

「お嬢様がそうなさるときは、何かに悩んでいるときです」
「辰巳、貴方は本当によく私のことを見ているわ」

くすくすと笑った私に、辰巳はまだ心配げな視線を寄こしてきた。


「…費用が足りないのです」

聖域の経費というのは、例えば暗黒聖闘士を大人しくさせたときに彼らに迷惑をしていた近隣の住民からのお礼という形の寄付などに頼っている。

聖域内で食べ物を生産し、ほとんど自給自足の生活だ。
だがそのためいつもギリギリの生活をすることになっている。それは候補生や雑兵など階級が下がっていくごとに顕著に表れる現象だ。


「食事もままならない者たちを放っておくわけにはいきません。彼らは皆、地上のために尽力しようとしてくれているのですから」

だが、それにしてもこの問題ばかりは私にもどうしようもない。

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