あっという間にギリシアに戻る日が来た。
荷物を確認しているところに瞬君と氷河君、そして紫龍君がやってくる。
「なまえさん、今日でギリシアに戻っちゃうんですよね?」
「うん、お世話になりました」
買い物に付き合ってくれてありがとうと言えば、三人はふわりと微笑んだ。
何この可愛い子たち。
弟に欲しい、なんて思っていると氷河君と紫龍君がおずおずと荷物を差し出してくる。
何かと受け取れば彼らは「師に」と言って申し訳なさそうに私を見た。
「カミュと童虎に渡せばいいの?」
「お願いできるでしょうか、ニケ」
「任せて!私も実はみんなにお土産買ってきたんだ。見てみて、カステラサイダー」
「え…」
「あとカレーマドレーヌ」
「え…」
「ちょっと、何その顔」
非常に居たたまれない顔で目をそらした紫龍君にもカレーマドレーヌを一つ上げた。あまり嬉しそうな顔をしなかった。氷河君は無表情のまま、わずかに眉を寄せる。瞬君にもあげる。はたから見てもよく分かる営業スマイルが返ってきた。
「冒険ができるんだよ、マドレーヌ一つで!すごくない!?」
「あの、味は…」
「…あまり保証しないけれど」
一応ちゃんとしたお土産に日持ちする和菓子の詰め合わせを買ってきたから、本命はそちらでカレーマドレーヌとカステラサイダーはちょっとしたお遊びとして渡すつもりだと言えば、三人は幾分落ち着いた顔をして息をついた。
「ちなみにじゃじゃーん、デッちゃんにはまっすぐ歩く蟹のおもちゃを…」
結局何にするか決めかねて購入した蟹のおもちゃを見せれば、紫龍が人差し指を立てて口を開いた。
「そういえば、老師に聞いたことがある。古代の格言に“蟹をまっすぐに歩かせようとは思わないことだ”という言葉が…」
「オーケー、その言葉もセットでデッちゃんに渡しておく」
皮肉が聞いていて良いじゃないかと笑えば瞬君がくすりと笑った。
そこにサガが時間だと言いながら迎えにやってきて、部屋中に広げられたお土産に顔を引きつらせるのだった。
(早く片づけを済ませるんだ)
(はーい)
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