「懐中電灯と、マスク、それからホッカイロ、あ、あと薬も買う」
メモ帳にさらさらと文字を綴り、あっという間に買い物リストを完成させたニケが立ち上がった。

「沙織は何か必要なものある?」
「いえ、私はとくには。…買い物に行くんですか、なまえ」

パソコンの画面と睨みあっていた沙織さんが顔をあげてニケを見る。
彼女が頷くのを確認するとすぐに僕たちのほうを見た。本を読んでいた紫龍も気配を感じたのか顔をあげる。そんな僕たちに沙織さんが口を開く。

「三人とも、なまえの護衛をお願いしてもいいですか。サガは今手が離せない仕事をしていますし、それはアイオロスも変わりませんから」
「え、いいよ、沙織。一人で行けるって」
「いえ、もちろん構いませんよ、お嬢さん」

そう言った紫龍に氷河も頷く。
僕も頷けばニケは少し困った顔をしたが沙織さんに後押しされて頷いた。振り向いた彼女が「ごめんね」と言ったのに首を振って立ち上がる。

さすがに日本国内で聖衣を着て歩くわけにはいかないし、聖衣箱を持ち歩くのも悪目立ちをするだろう。このままの格好で行こうと思ったのは紫龍も氷河も同じようでさっさと立ち上がって扉を開けた。

「どちらまで行くのですか」
「駅前の商店街まで」

お願いしますと言った彼女に微笑んで、沙織さんに一礼して部屋を出た。


途中廊下で書類を片手に抱えたサガとアイオロスが通りすがる。サガは僕たちを見ると微笑を浮かべて出かけるのかと聞いてきた。
「ええ、ニケの護衛をするよう沙織さんに頼まれて」
「なに、なまえの?」
「お世話になります…」

毎回お手を煩わせて申し訳ないと続けたニケにサガがほほ笑んで首をふる。気を付けて行って来いと言った彼が彼女の頭をそっと撫でて「行ってらっしゃい、なまえ」そう言って部屋に戻っていった。アイオロスも部屋に戻る際「お気をつけて、ニケ」と言うと僕たちにも気を付けるようにと付け足してサガのあとを追った。

「行きましょう、ニケ」
「うん」

そう言って城戸邸を出て四人で歩く。

最初こそなんとも不思議な組み合わせ、というより初めてのメンバーにあまり慣れず沈黙が続いたが道を進むにつれてだんだんと会話も増えてきた。とくにぐっと会話が増えたのはカミュと童虎という二人の師と彼女が、面識があるということからだろうか。

聖域での彼らの様子についてあれこれと質問を投げかける彼らの後ろをのんびりと歩く。

いいなあ、聖戦が終わって聖闘士がアテナと冥王によって再び生命を受けてからも一度も僕はダイダロス先生に会っていない。彼は聖域にはいないし彼女はきっと彼のことを知らないのだろうなんてぼんやりと考えているとニケが振り返った。

「瞬君たちはアイオロスのことをよく知っていたりする?」
「いいえ。何故?」

むしろ聖域で日々を過ごすニケのほうが射手座の聖闘士を知っていると思うと付け足せば彼女が納得したのかしていないのかは分からないが頷いた。何か気になることでもあるのかと聞いた紫龍に彼女は言葉に詰まったが、結局首を傾げた。


「ごめん、よく分からない」


一体何が聞きたかったのだろうと思いながらもそれ以上詮索することなく空を眺めた。

広がる青空と飛び交う小鳥。平和そのものだ。

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