「それなら、どうしてそんなに泣きそうなの?」
久方ぶりに口を開いたなまえが私の顔を覗き込んだ。頬に冷たい指先と雨粒が触れるのを感じながら彼女を見据えて口を開く。
「後悔はしていない。だが罪がある」
それはもはや誰にも許されないような罪。
「聖域は、何も変わっていない」
あれだけ多くの人間を殺め、神にさえ逆らった私が変えようとしたものは何も変わらない。
それなら私がしたことはなんだったのか。
それなら私が殺した者たちはなんのために死んだのか。
かつて、私は神を傲慢だと思った。
だが、本当に傲慢だったのは私ではないのか。
刃向うものは容赦なく弾圧した。自分こそが正しいと疑わなかったから。その傲慢さがあの欲にまみれたもう一人の自分を生み、そうしてさらに多くを殺した。
…いや、違う、黒は私だ。
私自身の欲求。それが自分にも抑えきれないほどに肥大して、そうして皮肉なことに私は救われたのだ。自分の罪をすべて彼に擦りつけることで、自分がまるで聖人君主のようにふるまった。彼がいることで私は聖人のままでいられた。違うのだ、私はそんな人間ではない。
アテナとともに訪れた星矢たちを殺そうとしたし、従わなかったダイダロスを殺した。正体を知った人間は容赦なく次々と殺していった。
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