聖域についたとき、すでに太陽は沈んだ後で、暗い森が風にざわりと揺れた。少し疲れてふうと息を吐けばサガが頭を撫でてくれる。

「お疲れ、なまえ」
「サガもお疲れ様」
「冥界はどうだった?」
「変なところだったね」

でも良い人がいっぱいだったと言えばサガはその通りだと苦笑を浮かべた。だが中々特徴的な場所だったのは疑い無いが、今日一日を思い出して頬が緩んだのもまた確かだ。パンドラはいい子だし、仲良くなれそうだった。

もう少し一緒にいたかったのだが、あまり長居しても迷惑だろうと帰ってきてしまった。また今度会えるだろうか?そうしたら今度は一緒にお茶でも飲みながらのんびりしたい。それから、冥王はよく分からない人だった。ミステリアスボーイみたいな、…もうボーイなんて歳でもないのだろうが。

それからタナトスとヒュプノス。あの二人は最も意味が分からなかった。特にタナトスにはもう何度たたかれたことか…。ミーノスやラダマンティス、アイアコスも面白い人だったし、冥界のイメージが少し変わったなんて思いながら歩き始めたサガの背中を追った。


「まずアテナとシオン様にご報告に行こう。それが終わったら今日の仕事は終わりだ」
「うん!今日はね、ディーテにもらったハーブティー飲んで寝るんだ」

彼の渡してくれる紅茶はどれもおいしいものばかりだから楽しみだと笑えばサガも笑った。ふと、彼が目をぱちりとして口を開く。

「…それは?」

そんなものを持っていただろうかとサガに言われる。一体なんのことだろうと彼の視線を辿れば私の手の中にあるブレスレットにたどり着いた。ああ、と声を漏らして握っていたそれを掌の上で広げる。

「うーん…、タナトスが渡してくれたんだけど」
「あの神が?」
「…私がタナトスに押し付けたんだって。…正直覚えていないんだけどね」

というより人違いだと思うと言って、握っていたきらりと青く光る宝石のついたブレスレットを眺める。これを私があの神にあげたらしいが、私たちは今日が初対面だったのだから絶対に彼の勘違いだ。いつでも返せるようにきちんと仕舞っておかなければと思った瞬間、ふいにちりと頭が痛んだ。

「…?」

頭に手を添えてブレスレットに視線を落とす。
どこかで、見たなこれ…。どこだっけ…?

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