「うーん…?」
「ふっ」
「!」

こちらは真剣に小宇宙を燃やそうと頑張っていたというのに、隣に居たシオンが突然吹きだした。彼と目があった瞬間、シオンはバツが悪そうな顔をしたもののすぐにいつもの澄ました顔に戻ってみせる。何がおかしかったのかと問えば、一瞬言葉に詰まったがややあって彼は実に正直に答えてくれた。

「いや、あまりにも真剣な顔をしているのに」
「のに?」
「できないものなのだな、と思って」
「だ、だから頑張っているの!」

そう言った私にシオンが微笑みながら頷いた。それがどうも聞き分けのない子供に大人が適当にあしらっている情景のように思えて頬を膨らませる。そしてすぐにそれこそが子供のような仕草だということに気がついて慌てて元の表情に戻した。
それを見ていたシオンがまた笑う。

「シオン!」
「いや、なに、そう焦る必要もあるまい」
「だって…、聖域に来てからもう一カ月は経つし…」

いい加減自分の出来の悪さに嫌気がさしてくるのだと言えば、シオンはふと笑みを漏らして背もたれに背を預けた。「心配せずとも、時折小宇宙が僅かに燃えている時がある」「時折?わずか?」「…初めはこんなものだ、恐らく」目を反らして、さらに「多分の話だが」と付け加えたシオンに今度は私が吹きだした。

「何を笑うのだ!」
「ご、ごめんなさい。シオンには珍しく自信なさげだから、つい。でも、ありがとう」
「…礼を言われる覚えはないが?」
「励ましてくれているのかなって思って」
「…解釈など好きにとれば良い」

そう言って目を反らしたシオンに笑いかける。そうしているうちに、雑兵の一人が私のところに時間を告げにやってくる。今日はこれから沙織と一緒に今後の予定をたてなければいけないのだった。その旨を伝えて、教皇の間を出る。

「じゃあ、またね、シオン」
「ああ」
「色々ありがとう!」
「…気にするな」

最後にもう一度お礼を言って扉を閉める。
扉が閉まる瞬間に見えた彼の顔に、僅かにだったが微笑が浮かんでいたのが嬉しくて私も笑い返した。



「あっ、ごめんなさい!」
「…いえ、」

時間に遅れないように走っていたせいか、角から出てきた女性にぶつかってしまった。そうして気付く。彼女の纏っている服が沙織、いや、アテナ女神の巫女の纏うキトンであるということに。ここ聖域では巫女や神官はかなりの地位にいる。もちろん、女神の一柱である貴女には関係のないことだが、一応彼女たちについても頭に入れて行くようにとサガに言われていたことを思い出して慌てて謝罪を口にした。

彼女は目を伏せたまま、小さく私の言葉に返事を返すと、「急いでいますので」と言って軽く会釈をして歩き去ってしまった。かなり強くぶつかってしまったので、怪我などしていないか確認したかったのだが急いでいるのなら仕方がないと、その背中にもう一度謝罪を投げかけて、私も沙織のもとへと、今度は早歩きで向かうことにした。

1/1