じっと黄金の杖を見つめる。

これは今だ私の手元にある。


しかし、勝利の女神の小宇宙は確かに、もう私にすら感じられなくなっている。この杖はもはや勝利の女神ではない。


けれど、だからと言ってなまえからニケの小宇宙を感じるというわけでもない。さて一体どういうことだろうか。(いや、私はもう答えを知っているのかもしれない。気づきたくないだけで)

「沙織?」

不思議そうな顔をした彼女が私を覗きこんできたことに気がついて、意識が現実に引き戻された。

「なまえ!ごめんなさい、考えごとを」
「ううん、気にしないで。飲み物淹れるけど…紅茶とコーヒーどっちが良い?」
「紅茶でお願いします」
「了解ー」

ぱたぱたと部屋を出て行ったなまえの背中を見送って、小さく息をついた。彼女と入れ違うように部屋を訪れたシオンがそれを見て不思議そうに私を見る。「何か御心配事でも?」「いいえ、気にしないで下さい」と簡単に会話を済ませて、彼から書類を受け取る。

「なまえの様子はどうですか?小宇宙に関しては順調ですか?」
「いえ、それがまったく。この間の小宇宙が夢だったのではないかと思うほど彼女からは神の片鱗も見えません」

もう少し、何か(例えば時間やきっかけが)必要なのかもしれないと言ったシオンに頷いて、窓から青空を眺めた。


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