換気をしようと思い窓を開けた瞬間、強い風が吹きこんできて読みかけだった新聞のページをばらばらとめくる。まったくなんてことだ、どこまで読んだのだったかと新聞を拾い上げる。

続きを読もうかとも思ったが、そんな気分ではなくなってしまったので新聞を折りたたみ机の上に置いた。
もう夕暮れだ。

最近は大分日が短くなったせいか、この間までまだ明るかったはずの時間なのにすでに宮の中は薄暗い。

立ちあがって部屋の明かりを灯す。女官を呼び寄せて宮内の明かりを灯すことを頼みそれが終わったら帰って良いと告げて、椅子に座りなおした。


「………」


静かだ。

先程までここで好き勝手に本棚を漁っていったデスマスクもすでに帰った。女官も明かりを灯し終わったら帰るように言ってあるから数分後には宮に私一人だ。さらに静まり返るだろうことを思って息をついた。
静かなのは嫌いではない。嫌いではないが、どこか奇妙な気分になる。教皇としてあの場所にいた時は常に周りに誰かがいたせいだろうか。もう一度小さく息をついた、それと同時にプライベートルームの扉を吹き飛ばすのではないかという勢いでニケ女神…、なまえが転がり込んできた。

「サガ!!」
「な、何事だ」
「あ、勝手に入ってごめんなさい」
「いや、それは構わないが、どうかしたか」
「あの、ちょっとサガに相談があって、ただ十二宮の階段を駆け降りてきたから勢いがついちゃって…」
「私に相談?」

どうかしたのかともう一度問いかければ、彼女は扉を閉めた後に歩み寄ってきた。

「聖衣仮面ちゃんが!」

聖衣仮面…、聖衣仮面?
ああ、そういえばこの間デスマスクにそんなあだ名をつけていたなと思い出して頷く。

「…デスマスクが?」
「私の事を苛めるの!さっき巨蟹宮を通りかかったら、急に壁に顔が浮き出してきたし!びっくりして気絶するかと思ったよ!!なにあの嫌がらせ!どっきりにもほどがあるよ!」
「…あの馬鹿者め」

女神を驚かせるためにあのような小細工を出すとは、あの性格は一体どうにかならないものかと溜め息をついて頭を抱えた。敵への脅し文句に使うのならまだいい。だがそれを女神に対して使うとは一体どんな神経をしているのか。こうして彼女も怒ってしまっている。罰を受けても知らんぞ、と思いつつも昔馴染み、そして共に戦った仲間だ。少しばかり手を貸してやるべきなのだろうともう一度息をついた。


「すまない、あいつには私から良く言っておくから」


だから今日のところはどうか勘弁してやってくれと言えば、なまえは目をぱちりとした後、けらけらと笑いだした。

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