しかし、畏れという感情はいまだ存在している。
なら、それは一体誰のものだ?


答えは簡単で単純なものだ。


「…神々が、もっとも人を恐れている」
「つけあがるな、小娘が!!!」

鋭く尖った刃が自分に降りかかる。即座に身をかがめて交わした。髪の毛が数本鋭利な刃物に裂かれてぱらぱらと地面に落ちる。

「…貴方達は本当に可哀想。暴力で抑え込むことしか知らないんだね」


沙織とは違う。アテナとも違う。
ここの神々は相手を理解し、分かり合おうとする心が欠けている。

「私を殺すならやればいい!それでも貴方達は勝利を得ることはできない!そんなことでは絶対に聖域に勝つことはできない!」
「口の減らぬ小娘め…!!そんなに死にたいのなら死ぬが良い、神に逆らった傲慢な人間が!!」


そして刃が迫る。
何度も切り付けてくるそれを必死によけたが、狭い部屋では限界があった。壁に背中がぶつかる。男が笑って刃を振りかざした。もう逃げ場はない。さすがに今回ばかりはやばいかもしれないと振り下ろされた刃に私が目を閉じた瞬間だった。


――――テリブルプロビデンス

低い声が響いて、突然部屋の中央で何者かの小宇宙が爆発した。
攻撃的な小宇宙が私に刃を振りかざしていた男の背中に直撃する。瞬間男の体が私の目の前から吹き飛んだ。

「ぎゃあああっ!!!」
「っ!?」

刃が頬を掠り、赤い血が宙に散った。だが、決してそれが私に突き刺さることはなく刃も部屋の隅にカラカラと音を立てて転がり落ちた。

そして一瞬のうちに訪れた静寂が理解できずに地面にぺたりとしゃがみ込んだ。

今の声、そして小宇宙は

「…おにーさん…、タナトス?」

返事が返ってくることはなかった。けれど今の小宇宙は確かに彼のものだった。助けてくれたのだろうか?だが、何故?部屋に満ちていた死の神の小宇宙がふっと消えてしまう。


「ま、まって、タナトス!」
呼びかけた私の言葉に、彼が答えることはなかった。



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