「つまらねえ場所」

一面真っ白の雲だった。

ところどころにドーリス式の柱が立っている以外、何も変わらない景色。神々ってのはこんなものを好むのか、まったく御大層な趣味だ。

「十二宮と大して変わらないだろうに」
「確かにな」

背後に立って笑ったアフロディーテを振り返らずに笑う。そしてしばらく辺りを見渡して自分たちしかいないことに気が付いた。

「…で、女神の譲ちゃんとほかの奴らは?」
「残念ながら全員めちゃくちゃに飛ばされたようだ。オリンポスからの干渉が来るだろうとは思っていたが、これは些か面倒だな」

女神と男神が作り出した時空の歪に、誰か別の神が干渉してきたらしい。結果的に全員バラバラの場所に飛ばされた。

「まあ良い、天界に来ることができたのなら問題の大半は解決しているからな」

まずは他の黄金聖闘士や女神を探して合流すべきかと同じように一面の雲景色を見渡したアフロディーテとふと目が合う。奴が薔薇を片手に笑った。


「何か文句でも?」
「おいおい…、あるに決まっているだろ。なんでお前と俺が一緒なんだよ。というかなんでお前と二人なんだよ、いい加減にしてくれ」
「それはこちらのセリフだ、蟹」


サガやシュラと一緒の方が楽で良かった。

そんな風に互いに憎まれ口をたたき合って笑った。まったく面倒なのは変わらないが、アイオロスやアイオリアたちと一緒にならなくて良かったと内心安堵する。あの頭の固い兄弟と一緒に闘うなど、なんの罰ゲームだ。


「まあ良い。とりあえず他の奴らを探そう」

そう言って歩き出そうとしたアフロディーテが足を止める。
つられて俺も立ち止まりすぐに気が付いた。何かがここに近づいている。徐々に高まった小宇宙がやがてその場に現れた。テレポーテーションしてきたらしい女の短いキトンが風に揺れる。



「私は森と狩りの女神、アルテミス」


アルテミスの森の色をした深い色合いの瞳に俺たちが映り込む。


「アテナの聖闘士よ、地上に戻れ。ここはお前たち人間が踏み荒らすことが許されぬ地よ」


こりゃ傑作だと思う。
高々人間の制圧に、女神自身がやってきたのだから、

これほどできた話はない。つまり、それほどまでに向こう…オリンポス側は聖域を危険視しているということだろう。

随分と期待されているなとにやりと口元に笑みが浮かんだ瞬間、背中にとんと衝撃を感じる。
背中合わせになったアフロディーテだ。「美の女神までお出でになった」「へえ、そりゃ最高だな。美人は良いもんだ」そんな軽口をたたけば、アフロディーテがくつくつと笑ったのを感じた。

「相変わらず口が減らないな。気の強い美人というのは骨が折れることを知っているだろう」
「おいおい、それは自分のことを言っているのかよ?」
「言っているが良いさ、蟹め」
「まあ俺は青臭いのより、どうせなら絶世の美女の相手をしたいものだな」
「ああ、好きにしろ」

背後でアフロディーテが笑ったのを感じた。目の前には森の女神、後ろには美の女神。面倒この上ないが、仕方がない。一つ仕事でもするかと肩を回した。

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