「僕を困らせないでくれよ、アテナ。僕、君を連れて帰って来いって命令されているんだから」
実に面倒くさそうに言ったヘルメスに笑い返した。
「そんなことは私には関係ありません」
はっきりとしたその言葉にヘルメスが僅かに顔を歪める。私の後ろでなまえが「沙織の返答超イケメン」とかわけのわからないことを言ったのは聞こえなかったことにしておこうと思う。
「さあ、帰ってオリンポスの神々に伝えなさい。このアテナは常に地上の正義と平和のためにあると。地上に手を出すというのならこのアテナはいつでも相手になりましょう」
「………」
「だから私を連れ帰るのではなく、そちらから出向きなさいな。私は逃げも隠れもしませんからね!」
黄金の杖を突きつけてそう言い切った私をしばらく眺めていたヘルメスがやがて目を伏せてため息をついた。
「地上にはもう手を出しているじゃないか、アテナ。君の言葉は戦いをなるべく延ばし延ばしにしようとしているようにしか見えないね。それに、言っただろ、僕は今日君を連れ帰らなきゃいけない」
「ならば今、私と戦いますか?」
連れ帰ることができるのならやってみるがいいと僅かに嘲笑を含んだ口調で言えば、ヘルメスが目を細めた。この伝令神は、いや、オリンポスの神々はかなり感情の起伏が激しい。そして性格が悪い。怒らせるのは非常に簡単だ。
やはり簡単に挑発に乗った弟神が腰から短剣を素早く抜いた。
だが即座に投げられたヘルメスの短剣は私に届くより早く地面にはじけ飛ばされる。
黄金はここには来ない。天界との情勢が不安定で何があるか分からない今、任務以外では自宮から出来る限り動くなと厳命してある。
では、誰が?目の前に感じた小宇宙に自分の目が丸くなるのを感じた。
自分の前に立った少年の、とてもとても懐かしくそれでいてつい先ほどまでそうしていたかのように思える背中は
「……星矢っ!!」
「天馬座…?冥王に魂を縛られていたのではないのか?いや、これはアテナとニケの小宇宙…?」
「ごちゃごちゃと何を言っているんだよ!?お前は誰だ!沙織さんから離れろ!!」
握り拳を作って怒鳴った少年は、やはり星矢だった。
何故、どうして?そんなことに答えは出せそうもなかった。ふつふつと湧き上がる喜びを必死に堪えて星矢の握り拳に手をついて抑える。
「星矢、下がりなさい。彼はヘルメス、」
オリンポス一二神のヘルメス。
貴方の敵う相手ではない。
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