今日も十二宮は穏やかな時間が流れていた。
ふらりふらりと人探しをしながらさまよい続けていれば、探していた背中を見つけて声を上げる。


「アイオロス!!」


道で偶然に見かけたアイオロスのもとへ走り寄る。
アイオロスは少し驚いた顔で振り返り、私を見ると駆け寄ってきた。

「ニケ」

ああ、やっぱり彼はそう呼ぶのか。
なんて、この間感じたショックとは違う、少し呆れの混じったそんな感情を抱いて苦笑した。

「ニケ、この間は何か粗相をしたようで、申し訳なく思って…」
「すとーっぷ」

つらつらと謝罪を述べだした彼の口に人差し指を当てて黙ってもらう。
目を丸くして口を閉じたアイオロスを見上げて笑った。


「ごめんね、私、アイオロスにたくさん偉そうなこと言ったけど何も分かってなかった。それだけ、謝りたくて探していたんだ」
「何も、謝ることなど…」
「射手座の聖闘士か、アイオロス自身かって聞いたでしょ?私だって自分のことをよく分かっていなかったのに、本当にごめんね」

アイオロスは黙って私の言葉を聞いていた。

「自分のことを決めるのは、自分なんだよ。だから、私が貴方にとやかく言うことはできなかったの」
「いいえ、ニケ。私は何も気にしておりません」
「なにー?」


何も気にしていない。


彼の優しさから出ただろうその言葉の矛盾点に気が付いて、ちょっとだけからかうことにしてみた。

「ニケの言葉を何も気にしていなかったなー!」
「いえ、決してそのようなつもりで言ったわけでは、」

真面目に受けとったのか僅かに表情に焦りを浮かべて早口に言ったアイオロスに噴き出した。きょとんと眼を丸くした彼に笑いかける。

「…ふ、ふふ!冗談だよ!!でも、そういうことなの。私の言葉を気にするのも、気にしないのも、アイオロスが全部自由にしていいことなんだよ。うまく言えないけど、私はそれを知れた気がする。ありがとう、アイオロス」
「…?…いいえ」

アイオロスのおかげで色々と考えることができた。
何度もありがとうと言った私をアイオロスは不思議そうに見下ろしていた。そんな彼に微笑んで提案する。

「あっ、そういえばこの後サガとかデッちゃんとお茶するんだけど、アイオロスもどう?」
「女神とお茶など畏れ多い」
「嫌なの?」
「いや、そういうわけでは…」

少し意地悪な聞き方だったかもしれない。困ったように眉を下げたアイオロスに苦笑した。

「ごめん、責めているんじゃないんだ。でも、もし用事とかなくてアイオロスが退屈だったなら、私はアイオロスとも一緒にお茶が飲みたい」
「…それは、光栄です」

そう言って膝をついて私の手をとったアイオロスに苦笑し続ける。
まだ彼と親しくなるのは少し難しいかもしれない。


(結局お茶会には参加してくれたけれど。)

1/1