小春日和のぽかぽかとした日差しの中、誰もいない砂浜に降りた。白い砂に足跡をつけながら歩く。
聖域の外れの崖に囲まれた場所にぽつんとある砂浜には誰の気配もしなかった。むしろ、この場所を知っている人間がほとんどいないのかもしれない。私もこんな場所があるということを知らなかった。

砂浜はただ静寂の中にあった。

「幼い頃、よくここに来ていた。ここには誰も来なかったから、一人の時間を過ごすのに最適だった」

そう言って目を伏せたサガを振り返る。
「私が来ちゃって良かったの?」
「構わない」


きっぱりとしたサガのその言葉には何も返さずに靴を脱いだ。そのまま靴下も放り投げて海に突撃する。だが慌てたような声で私を呼んだサガに手を引かれた。日本の海に行ったときとまるで同じ行動ではないかと少し笑いながら振り返る。


「どうしたの?」
「風邪をひく」
「もうだいぶ暖かくなったから大丈夫だよ」
「しかし、まだ風も冷たい」

日本でもそんなことを言われて海に入るのを止められた。だがあの時は冬、今は春だ。季節が違うと言ってもサガはかたくなに首を振るだけだった。

「…サガ、そんなこと言って一年中私を海に近づけない気だっ」
「な、そんなことはない!」
「夏は日差しが肌に悪いとか言うんでしょ!」
「い…わない、こともないかもしれん」

目をそらして呟いたサガに笑ってそっと彼の手から離れた。

「大丈夫、そんな病弱じゃないよ!」

そのまま波打ち際に突撃した私を、サガは溜め息こそついたが今度こそ止めることなく眺めていた。
そんなサガに笑いかけて透明な海水に踝まで浸かって水を蹴る。太陽の光を受けてきらきらと光るそれがとても綺麗だった。

「あ」
「どうかしたか?」
「桜貝だっ!」

波が引いた時、しゃがみ込んできらりと太陽の光を受けて輝いた桃色の薄い貝殻を拾い上げる。サガにも見せようと彼を振り返った瞬間、サガが私を素早く呼んだ。

「なまえ!!」
「えっ、うわっ!!」

しゃがんでいた時に限って大きな波が打ち寄せて、背中までびしょ濡れになった。下着に関してはもはや論外だ。慌てて立ち上がって服を叩く。そして水気を落とそうとしたがもう後の祭り、ぐっしょりと濡れた服に肩を落とした時、サガが歩み寄ってきた。

「大丈夫か」
「服以外はね」

苦笑いでそう言った私にサガも苦笑した。

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