思い出してボンッと顔が熱くなったのを感じた。今が夜で良かった!!きっと私の顔色まで彼には見えないから。
それでもとにかくサガの質問に答えるべく口を開く。
「…私は、サガが良い、サガじゃなきゃ嫌だよ」
だから私で良いのか、なんて言わないで。サガでなければ駄目なんだ。
蚊の鳴くような声だったが、サガには届いたらしい。手を握る力が強まった。
「そうか」
「サ、サガこそっ、後で嫌になっても知らないよ!」
「それは有り得ない」
「……、そ、そう」
あまりにもサガがはっきりと答えたものだから、どこか気恥ずかしく感じてまた俯いた。
二人分の足音、近くの小川のせせらぎ、梟が鳴く声が穏やかな森に響く。
「なまえ、アテナとはもうお話したのか」
「うん、沙織にもたくさん心配かけちゃったから、ちゃんと話し合ったよ」
「もう、大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫だよ、サガ」
笑みを浮かべて顔を上げれば、サガも微笑みを浮かべた。森を抜けて、あとはもうしばらく行けば十二宮だ。朽ちた柱や暗い人気のない競技場の横を歩く。
月光が照らす中、くるりと回転して彼の前に立った。
「それで私、約束したの。今度はニケとしてアテナのことをちゃんと守るって」
ニケは、アテナを置いて死んだ。彼の後を追った。最後まで、アテナのことを守りきることができなかった。
サガはニケのことを知らない。だから、私の言葉の意味なんてきっと分からなかっただろう。でもサガはいつものように黙って私の言葉を聞いていてくれた。
「聖域のために、アテナのために、沙織のために、サガのために、皆のために!今度は私も戦う。サガ、ここのみんなが大好きだから、私、前よりもっともっと頑張るから見ていて!」
その言葉に目を細めた彼が私の頭に手を伸ばしてくれる。そっと撫でてくれたサガを見上げた。
「温かくて、優しくて、綺麗なこの場所が好き、サガが好き、絶対、絶対守るから!」
「私の台詞だ」
そう言って微笑んでくれたサガが嬉しくて、溢れ出た感情を止めるすべを私は知らなかった。
「好きよ、サガが一番、大好き」
ふと、見上げれば月光の下でサガの口元がゆるゆると緩んだ。固まった私を見て、彼が不思議そうな顔をする。
「に…」
「…なまえ?」
「にやけたっ!!」
「は?なまえ…、なまえ?」
突然走り出した私にサガが焦ったような声で呼んできた。だが、私にはそれどころではない!誰にこの感動を伝えればいいのだろう!やはりカノンだろうか?ああ、でもにやけたサガが可愛いなんて、きっと誰も信じてくれない、
これは、
私だけの秘密。
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