「死の神、タナトス」
「聖闘士、何をしに行くつもりだ」
「眠神に用がある」
「ニケに会うためか」
一体どこまで知っているのか。
死の神を正面から見て、しかし何も答えないわけにはいかず頷いた。それを見た彼が顔を歪める。
「戻れ」
「できない」
なまえに会うまで戻ることはできない。
「ニケにあってどうする?」
「連れ戻す」
「あの女神がそれを望んでいないのにか」
「望む望まぬは私には分からん。だからそのためにも私はなまえに会わなければならない」
これからのことを決めるためにも。
そう言った私にタナトスが苦虫をかみつぶしたような顔をする。
「ヒュプノスは眠りを司る。だからあれはすぐにニケの状況を知ったぞ」
それに口を閉じた私を睨みつけた彼がそのまま話し続ける。
「お前たちが、ニケを殺すのだ。ニケを殺すのはいつもアテナだ、あの女神はそれを少しも反省しておらん」
お前たち聖闘士もアテナも好かんと言った死の神が顔を顰めたまま語調を強める。
「神話の時代に死んだあれが、ようやく再び生を受けたと言うのにお前たちはまた殺すのだ。勝利の女神を、何度でも!そのような扱いしかできんのなら手放せ!傍に置いておくべきではない、冥界なり天界なりさっさとあれを解放するべきだ。そしてもう二度と近づくな」
神話の時代に死んだ。
その意味が分からず口をつぐむ。
神は死ぬのか?我々が殺すとはどういうことか。
それは今の私にはどうも分かりそうもなかった。
しかし、これだけは言えるというのは私がなまえを殺すなどということはないだろうということだ。殺せるはずもない。
「…タナトス」
真っ直ぐに向き直った。少し離れたところにいる彼をまっすぐに見据えてはっきりと言葉を紡ぐ。
「どうか、通してくれ。私はなまえに言わねばならんことがある」
その言葉に、死の神はやはり顔を歪めただけだった。
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