楽園で待っているというヒュプノスに会うために、パンドラから通行証を借りて道を急いだ。初めて足を踏み入れるその地も、今はちっとも気にしている余裕もない。

ただ先を急いで眠りの神のもとへ走る。

アテナは詳しいことを私に話さなかった。

しかし推測はできる。


夕暮れ気分が悪いと言って、最後にひどく取り乱した彼女は、私の知っているなまえではなかった。あれは恐らく、ニケ女神のほうだ。

なまえの中には二つの人格が存在する?

かつての私のように、それは決してありえないことではない。けれどそうではないように感じた。今までなまえがあのような状態になったことはなかった。

だとしたらそこにあるのは自己の闘争だ。

つまり、あくまで仮定にすぎないがなまえはなまえであろうとしている。
しかし彼女が持つ小宇宙は女神のものだ。
その巨大な力、または何らかを原因にニケという神格が彼女の中で確立された。それとも、なまえ自身が本心ではそれを望んでいるのだろうか。

聖域やアテナのためには恐らくそちらのほうが望ましい。

「……、」

なんにせよ、この答えを彼女ではない私に出すことはできない。
まずはなまえと直接対話をしない限りは何も分からないのだ。


一層足を速めようとしたとき、ふいに攻撃的な小宇宙を感じて飛びのいた。
花が散る。先ほどまで自分が立っていた場所が抉れたのを見て、すぐに顔を上げた。

少し離れた神殿の入り口に立っている存在を見とめて名前を呼んだ。

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