膝を抱えてしゃがみこんでいた私の頭を誰かが撫でた。
顔を上げれば長く美しい金髪と空色の瞳がまっすぐに私を見ていた。
ニケ。
勝利の女神。
偽物の私とは違う、本物の神様。
彼女が今目の前にいることを不思議と私はすんなり受け入れた。
ずっと、もしかしたら私が星矢君の部屋で目を覚ました晩から彼女は私と共にあったのかもしれない。小宇宙は彼女のものだ。女神は死んでも小宇宙は残った。
そこに彼女の意識があってもあるいはおかしくないのかもしれない。私と彼女は常に共にあった。彼女の気配は常に感じていた。けれど私たちは決して同一ではなかった。
彼女は彼女で私は私。
「…なにをしに来たの?」
その言葉に彼女が薄い笑みを浮かべた。
「なまえ、どうか貴女に私を、解放してもらいたいのです」
「…なにそれ」
「貴女にしかできない」
一度は地上を憎んだ。
アテナ女神を恨んだ。
しかしそれは間違いなのだ。
アテナ女神が私に教えてくれた。楽しいということ。悲しいということ。自分の存在ということ。
そして、彼女のおかげで私は彼と出会った。愛を知り、地上を愛した。
彼の生まれたその地を、彼が生きたその地を、彼が最後までいたその地を、私は愛している。
「守ってください、私の代わりに」
「人間の私に何ができるっていうの?」
「貴女はニケ。なまえ、貴女はもう知っているはず」
それがどういう意味か、分からないはずはないと。そう言った彼女が目を細めた。
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