「ヒュプノスは眠りを司る神で、夢神の父でもある。彼の協力があれば恐らく人の貴方もなまえの眠りに入り込むことができるでしょう。なまえに語りかけ、そして彼女の目を覚まさせてあげてください」
「御意」
「…サガ、きっとなまえはひどく混乱しているのでしょう。それもこれも私のせいなのです。思慮が足りませんでした。なまえの目が覚めたらきちんとすべてを説明します。だからどうか、彼女を起こしてください」
「仰せのままに、女神」

微笑みを浮かべて傅いたサガに微笑みかける。


「信じていますよ」


表情を引き締め頷いた彼の背後でシオンが戻ってくる。

「すぐにでも協力してくださるそうです」
「では、すぐにでも」

サガを見る。
彼は頷き、一礼をするとシオンのもとへと駆けて行った。そのまま部屋を出た二人の背中を見送る。

どうか無事に帰ってきてほしい。なまえも、サガにも。そうしたらたくさんの話をしよう。過去のこと、今回のこと、これからのこと。そのためには二人が戻ってこなければならない。


何事もなければいいか。そう考えてその思考を振り切るように頭を振った。

私は信じるだけだ。二人が戻ってくることを。


だが、それだけではいけない。
時間は刻一刻と過ぎているのだ。私は私にできることをしよう。

教皇の間から出て窓から外を覗き込む。もう深夜だ。夜空の丁度真上に月女神が君臨している。森は夜の闇という褥の中で静まり返っている。

私にできること。
それは戦いを未然に防げるように立ち回ること。


オリンポス十二神の一柱。
森の女神にして月の象徴。


「…アルテミス」

呟いた名前に、月光が揺れた。

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