「分かりました。…しかし、どうするべきでしょうか。アテナ、貴女に起こすことができませんか」
シオンのその言葉に首を振る。
彼女がこうなった原因は私にある。
無理に彼女の精神に干渉して余計にこちらを拒絶させることは避けたい。
「誰か別の人間に頼みたい…のですが…」
けれどそうなると難しいだろう。
黄金聖闘士レベルの人間でなければなまえの小宇宙や精神を傷つけないように干渉することはできない。
「…シオン、やってくれますか」
「…は、私がですか」
少し驚いた顔をしたシオンに頷く。
彼は教皇であり、そして思慮深く聡明な人間だ。彼にならきっと果たせないことではないだろう。
「なまえを宥めて目を覚ますように誘導してほしいのです」
ただし、人にはいささか高度すぎる技術であることには間違いない。
誰か別の神の手を借りなければならないだろう。なまえは今倒れて眠り込んでいる。…眠り、ヒュプノス。
今すぐハーデスに連絡をして、冥界に出向き彼の力を借りることができればあるいは人間である彼にも恐らく可能だ。
それを説明し、シオンが頷いたことを確認してハーデスに頼み込むために準備をしようとしたとき扉が開いた。
「お待ちください」
駆け込んできたサガがすぐに膝をつく。
「アテナ、その任にどうか私をおつけください」
「サガ、なぜここにいる。宮に戻るように言われたはず…」
「シオン、良いのです」
膝をついたままのサガのもとまで歩み寄り、彼の大きな手を取る。
「サガ、顔をお上げなさい」
「は」
そうして顔を上げたサガの目をまっすぐに見据えた。
利発そうで端正な顔立ちのサガは、私の目から視線をそらすことはなかった。
「…いいでしょう、貴方にお任せします」
迷いのないその目に微笑みかける。
恐らくなまえが最も心を許しているのはサガだ。
シオンと同じようにとても優れた能力と、人を…、なまえのことを理解する心を持ち合わせている。もしかしたら彼が一番の適任だったのかもしれない。頷けばサガがわずかに頬を緩ませた。手をぎゅっと握る。
「喜んでいる時間はありませんよ」
「…申し訳ありません」
「謝らなくてもよろしい。さあ、すぐにでもハーデスに連絡をして冥界のヒュプノスのもとを訪れて下さい。シオン、パンドラに連絡を!」
その言葉にシオンが頷いて部屋を出て行った。その背中を見送りサガへ視線を戻す。
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