これから先どうするのか。

このまま聖域にとどまってくれるのか。
それとももう日本に戻り人間として生きるのか。

ゼウスが地上に手を出すかもしれない今の状況では、なるべく勝利の女神としてなまえには聖域に留まってほしい。そうすることで勝利はともにあると聖闘士や雑兵も励まされるだろう。

しかし、なまえはそれを望むだろうか。

「………」

それは私にはわからない。
けれど、もしなまえが許してくれるのなら私は全てを話し、そのうえでこれからも彼女とともにいたいと思うのだ。


なまえは私を沙織と呼ぶ。
なまえは私を友達と呼んだ。

彼女を失いたくないのは、アテナだけではない。アテナの中にある沙織も、なまえの傍にいたいと願っている。

私はかつて、普通の少女として生きたいと願った。

それは叶わなかった。

アテナと生まれたからには、私は普通の少女ではいけなかった。
私はアテナにならなければいけなかった。全てを犠牲にして私のために生きてくれたアイオロスとお爺様のためにも、私には城戸沙織として生きる選択肢は存在しなかった。

後悔などしていない。
これで良かったのだと思っている。

アテナは、その選択を欠片も間違っているとは思わない。
しかし沙織は、なまえを傍においておきたいと願う。友人として、人間として。
アテナは、彼女がニケだから傍に置いておきたいと願う。従神として、女神として。

何故、アテナがそう願うのか私にはよく分かっている。
そのことは、なまえが目が覚めたときに話すことにしよう。
まずは、彼女と対話するところから始めなければならない。

目を閉じてなまえの手に触れる。
無理に起こすことは体に負荷をかけることになるが、このまま悩み倒れたままにしておくことも結局は同じ結果を引き起こす。それならば、早く起こして彼女の悩みを取り除き、望みどおりにしてやるべきだ。


なまえが日本に戻るとしても、ここに留まるとしても、どちらにせよ。

そう考えてそっと小宇宙を流し込んだが、ふいに違和感を感じて立ち上がった。なまえの顔を覗き込む。

「…これは…、困りましたね。完全に自己に閉じこもってしまっています。人間というのは強いストレスを感じたとき眠り込むことがありますが、彼女の場合小宇宙がそれを手伝って目を覚ます兆しが見えません」
「…誰かが小宇宙ではなく精神自体に干渉し起こさなければならないのですか?」
「そういうことになるでしょう」

頷いた私を見たシオンが顎に手を当ててなまえを見た。

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