幾分焦った顔で教皇の間に飛び込んできたアイオロスが抱えていたのはまた倒れたらしいなまえだった。やはり先ほど感じた強い小宇宙は彼女のものだったのか。
何を考えて、何に悩みこうなったのか。そんなことは分かりきっている。
私のせいだ。
頭を抱えて椅子にしゃがみ込んだ私の背中をシオンがさすってくれる。
「アテナ」
「すみません…、私がしっかりしなければ」
深いため息をついて顔をあげる。
今回のこれは私の判断ミスだ。
いや、それともヘルメスの言ったようにエゴだったのかもしれない。
なまえにニケのことを話さなかった。ニケから受け継いだのであろう小宇宙を持っていたから話す必要もないと思っていた。いずれ彼女が自分で思い出し、そしてニケとして生きていくのだろうと、そう信じ込んでいた。
間違いだったのだ。
なまえはなまえとして生きてきた。
ニケになるために今日まで生きて来たのではない。
そんな彼女に、ニケの記憶を思い出したという理由だけでニケとして生きることを強制することが誰にできたのだろうか。
「なまえが起きたら全てを話します。シオン、その時は貴方も…。…ただ、どうか彼女のことを誤解しないであげてください、なまえは…ニケの小宇宙を受け継いでいることに間違いはありませんし、何も悪くないのです」
「…アテナ」
微笑んで首を振った彼が私の前に膝をつく。大きな手が私の手に添えられた。
「なまえはなまえです。真相がどうであれ、どんな話を聞いても私の考えは変わりません」
「…ありがとう」
そっと浮かんだ微笑みをそのままに立ち上がる。
寝台に横たえられたなまえの横に歩み寄り膝をついた。
「まずは、彼女を起こします。この状態のまま眠らせていても、恐らくストレスがかかるだけでしょう。あまり勧められた行為ではありませんが…、このままでも彼女の体にはストレスと負荷がかかります。ならば小宇宙に干渉してでも早いうちに起こし、全てを話します」
そして私たちは決めなければならないだろう。
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