自分勝手な考えだ。

けれど、サガの傍にいるためにもやはり私はニケにならなければならない。


サガは双子座の黄金聖闘士で、地上を守るという意思に溢れた素晴らしい人。
じゃあ私は?


私はただの人間の、なまえだった。
サガとのつながりも、ここにいる意味もすべてなくなってしまうただのなまえだった。

私はアイオロスに、射手座の聖闘士なのかアイオロスなのかと尋ねた。
なら、私は?私は勝利の女神?人間なまえ?私は人間なまえだ。勝利の女神の記憶を断片的に、それでも彼女の生き方を見た。
それが余計に私に知らしめた。彼女は私ではない。

考え方も、容姿も、彼女が持っていたような翼も持たない私はニケとは何もかもが違う。小宇宙が同じだからなんだと言うのか。どうあっても私はなまえで、やはりニケではないのだ。

けれどそうすると何をどう考えても答えは変わらない!
聖域が必要としているのは勝利の女神で、人間なまえではないのだから。

まだ、私はここにいたい。
自分勝手な思考と、そして大好きなこの場所にいたいという意思から。


だから、私は沙織に否定してほしかった。
夢も、ヘルメスと名乗った少年の言葉も、ニケの死ということも、

けれど沙織は小さく首を振った。


「ニケは…確かに死にました。あの日、彼女は泣いていたのに、私には何もできなかった。けれど、なまえ!」


一瞬で頭の中が真っ白になった気がする。
沙織が私に何かを言っていた。シオンも彼女の傍で、なにか、を


けれど私はもう何も聞き取ることができなかった。
どうやってその場を去ったのかさえよく覚えていない。


ニケは、死んだ。死んでいた。

(それじゃあ、)

(それじゃあ私は、なんなの?)

この聖域と言う場所で、ニケを名乗ってきた私の存在は、一体なんだったのだろうか。

答えが見つかるはずもなく、それがひどく恐ろしく感じて私はただ走り続けた。一歩でもその場から離れたかった。沙織に、アテナにそれ以上の真実を聞くことが怖いんだ。(お前はもう必要ないと言われるのが、怖い)


沙織が、なぜ私をこの場所へ連れて来たのか。
私はもう何もわからなかったし、わかりたくもなかった。

(ぐるぐると頭の中を巡り続けるニケの記憶が初めて忌まわしく感じた)

7/7