「話?話って何を?嘘をついていたことを謝って私を聖域から追い出す?」


その言葉に沙織が顔を真っ青にした。

それが悲しくて、苦しくてそれでももう自分のことがわけわからなくてどうしようもなかった。駆け寄ってきたシオンが私たちに何かを言っていたが、何も耳に入ってこない。

「嘘をついていたの?ニケはもう死んでいるんでしょ、それじゃあ私は何?どうしてここにいるの」
「ち、違います!なまえ、ヘルメスの言葉に惑わされないで」


顔を青くして狼狽える沙織の横で、シオンが私を見る。


「自分を見失ってはいかん」
「自分ってなに?貴方たちが言うそれはニケのことでしょう?私にニケを作り上げたのは貴方たちじゃない!!私はなまえなのに!」
「なまえ!!」

するどく沙織に名前を呼ばれてはっとした。


馬鹿だ、

私は馬鹿だ。
自分でそれを受け入れたのに、どうしてシオンたちを責めることができるだろうか。

「ごめん…」
「いや…」
「でも、ねえ沙織…、説明してよ、どういうこと?」


嘘。

本当は説明なんてしてもらわなくても、全部わかっている。
私は、彼女の記憶を覗いたじゃないか。
ニケの記憶を見たじゃないか。

最期、彼女はどうした?
違う、違うんだ、私は信じたくないんだ。だってそれを信じてしまったら、私は一体なに?勝利の女神ではなくなる。それはつまり、私はここにいる必要も価値もないただの人間だということを示す。


サガ、

彼の傍にも、もういられない。

彼が私を傍に置いてくれているのはきっと私が勝利の女神だからだ!今彼が何を想って私の傍にいるのかなんて知らない、けれどきっかけは確かに勝利の女神としての私だった。けれどもしそれが根本から崩れるのなら?私は初めから、サガを、そして彼らを騙していたことになる!

だから、私は否定してほしかったんだ。

私は私だと、ずっとそう思っていた。

けれど、どこかで私は勝利の女神に惹かれていたところもあったのだと思う。そうなりたいと思っていたのだ。なまえでは何もできないから。聖域のためにここにいるには私はニケでなければならなかった。

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