小宇宙とはすなわち生命の原点である。

それを全て出し切ったとき、そしてもはや神のみ身ではない人間の身であるこの体がどうなるかはわかりきっていた。
それでもいい。

それでも私は幸せだ。

だってそうすることによって彼を探しに行ける。
もう何にもとらわれることなく彼を待つことができる。

私は、彼と共にいく。


「さよなら、パラス・アテナ」


これが女神としての、私の最後の言葉。アテナ、いつでも私のすべては貴女のために。愛しい私の主神。

「さようなら」

ふと、視界が陰った。


「ニケは死んだ」


その言葉に目を開けた。ぼんやりと影のかかったような瞼をこする。すぐにクリアになった視界で部屋を見渡した。
教皇の間にいるらしい。
どうしてこんなところにいるのだろう。


私はなにか、夢を見ていた気がする。いや、あれは夢だったのだろうか。

違う、あれはニケの記憶だ。
ニケの記憶。…それは、私のものではない。


「それは人間だ」


ふと声が聞こえたほうに視線を向けた。見たことのない少年が愛想のいい笑顔を浮かべて立っている。彼は、私のすぐ正面で私に背を向けて立っている沙織を見ていた。


「ニケは望み通り人の身を手に入れ、そして死んだ」


少年の言葉にガツンと頭を殴られた気がした。

けれど、それは気のせいだ。だって私はそれをもう知っていた。今見たではないか、彼女の記憶を通して!今更衝撃を受けることではない。
ニケは死んだ。もう、いない。アテナにすべてを残して、あの黄金の杖を自分の代わりに残して、

「いいえ、神は死にません」
「言っただろう、アテナ!ニケは人間の身を手に入れたんだ。人は死ぬ」

話についていけない。
その少年が誰なのか、何を沙織と言い争っているのか、


ニケが、

ニケが、死んでいるとは、どういうことか

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