神は、涙を流さない。
瞼から溢れるようにして流れ出て頬を濡らしたそれに、私は自らの願いを神々が聞き入れてくれたことを知る。
彼を救うことが叶わないのなら、なんの役にも立たない力ない女神のままなら、私は神などいらない。死は不死に憧れ、不死は死に憧れる。しかしより強く惹かれるのは不死だ。不死の苦しみは不死者にしか分からない。見送り続けなければならない。苦しまなければならない。永遠に一人で。
それなら、そんな神で私はいたくなかった。ようやく手に入れた温もりを手放したくなかった。
そのためなら、私はもう人で良い。
同じ力を持たないただの女で良い。
天帝ゼウスか、それとも両親か、アテナか、冥王ハーデスか、
それは分からないけれど、私はようやく望んだそれを与えられたことを知る。
「どうか傍にいてください」
かつてアテナはそう言った。
ごめんなさい、アテナ、私は約束を守れない。私はもう貴女を支えることができない。ごめんなさい、アテナ、それでも私にはもう耐えきれない。
「アテナ」
彼がいなくて、貴女もいなくなったこの世界など私はもういらない。
「パラス・アテナ」
限界だ。
「ごめんなさい、アテナ」
それでも、私は貴女に力を与えよう。虚飾の勝利を、勝利の象徴を、なおも貴女に残そう。そのために私はここにいるのだから!そのために私は生まれたのだから。
貴女のためにすべてを残そう。
貴女が私に与えてくれたその全てを返すために。愛も幸福も平穏も全て貴女が与えてくれたものだった。これからは私が貴女のそれを守る力になろう。
貴女のために、私の象徴を残す。
私がいた証を、私の司ったそれを、アテナただ一神のためだけに。
それこそ永遠に、新しくそれを受け継ぐものが現れるまで残るだろう力を。
その代り、私は貴女との約束をここに破棄する。
「ごめんなさい、アテナ、ごめんなさい」
全ての小宇宙を収縮して放出する。溢れる黄金の光に目を閉じた。この色を見て思い出すのは彼のことだけ。アテナと地上をお守りして死んだ彼のことだけ。枯渇していく力を感じながらも、それでもすべての小宇宙を放ち続けた。
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