「いやぁっ!!離して!!」
「なまえ、落ち着け!」
「おいサガ、なんなんだよ!」
「分からない…、ともかく落ち着かせるべきだ」

手が伸びてくる。
捕まったらいけない、目先の“勝利”という幻想に恐れを忘れた人間たちに何をされるか分からない!伸ばされた手を振り払った衝撃で地面に倒れこむ。すぐに再び伸ばされた腕から後ずさる。


「や、めて、やめて、私から翼を奪わないで!!!」


これは、ただの翼ではない

あの人が美しいと言ってくれた私の羽を、
あの人のもとへ飛んでいくための羽を、
彼が初めて私にかけてくれた言葉の証のそれを!!


「奪わないでえ!!!」
「…やれ!!」

血のにおいと、焼くような痛みと、急に軽くなった背中の意味なんて分からなかった。分かりたくなかった。

「う…っ、ふ、ぅっ…」

背中が痛い。痛い痛い痛い、

じわりと視線の先にまで赤が出て来た。何よりも憎い色だった。この色が、彼を奪った。この色が彼の青を覆い隠した。最後の瞬間この色が彼を覆い尽くした。

「、テナ…」

貴女は見ているだけなのか、

「アテナ」

救ってくれないのか。私には結局それだけの価値しかなかったということなのか?それなら貴女はどうして私を従神にしたのですか?貴女が私を地上に連れてこなければ、私はこんな苦しみに胸を締め付けられることもなかったのに!

「欲に塗れた愚者どもめ!地上などもう愛せるものか!誰も私の神殿に近付くな!もう誰も私に近付くな…!お前たちなど祝福しない…!!」


私と彼を繋ぐ最後の絆を返して!!


切り落とされた私の翼は燃やされ灰になり、そして風に連れ去られた。

残ったのは痛みと苦しみと絶望。
私は彼との繋がりを少しでも持っていたかった。彼が愛した地上ならば守っても良かった。けれど人間がそれを奪ったのだ。

「もう、いや」

視界が真っ暗になる。そのまま意識も混沌に落ちていった。
最後、誰かに抱き上げられたような気がしたが、それもきっと気のせいなのだろう。
それはとても優しさに満ちた手で、けっして傷つかないようにという気遣いに溢れていた。

ありえない。
私に、そんな風に触れる人間がもうこの地上にいるはずないのだから。



「…」

どうして、私は勝利の女神だったのだろうか。

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