「おい、置いていくぞ」
「待ってー」

デッちゃんがアテネに食材を買いに行くというから一緒に行くことにして後を追う。けれど足の長さが違うのだ!くやしいことにデッちゃんの足は長い!だから早い!
必死に追いかける私をにやりと笑いながら振り返った彼にイラッとしながらも追いかける。

だがその途中、青空と春のたんぽぽに似た花が咲く道でぐらりと景色がゆれる。


突然目の前に立ったのは、銀髪のおにーさん、

彼が苦々しげに顔を歪めて私の手をつかむ。


「こんな場所にいるから駄目になる…!俺と来い、お前は地上にいるべきでない」
「離して下さい!私は地上から離れません…!最後までアテナとあの人の傍にいます!」
「神のくせに愚かな間違いに身をゆだねるな!!」

違うわ、間違いでも愚かでもないもの!

貴方がそう思うのは、貴方が愛を知らないからにすぎないのに。お願いだから、私に神を押し付けないでください。

できるのなら、私は人として生まれたかったのだから。
人として、彼の傍に立ちたかった。共に生き、共に老い、共に死にたかった!

それが叶わないことを私は知っているから、せめて彼の傍で最後まで生きたいと願っただけなのです。


「ニケ、お前は人間と過ごしすぎて勘違いをしているんだ。神につりあうのは神だけだ」
「いいえ、タナトス。貴方にもいつかわかるはず」
「正気でない」
「正気です」
「正気なものか!!人と愛し合うだと…!?馬鹿を言うな!」
「人と神に一体どれだけの差があるというのですか!花を見て美しいと思う心、何かを美味しいと感じる心、相手を気遣う心、そして愛し合う心に一体どれだけの差がありますか?ないではないですか!私たちは何も変わらない!神と人は愛し合える!」


馬鹿ではない。

分かるわ、タナトス、


貴方にもいつか私の想いが分かるはず。
神と人に大差はない。同じ心を持っている。分かりあうことができる。私は人を愛しています。貴方にもいつか分かるでしょう。私たちは何も変わりのない存在だと言うことが、


「なまえ!」
「うわっ」

肩を揺らされて目の前にデッちゃんがいたことに気が付く。しばらく現状が理解できずに固まった私の前で、デッちゃんが眉をしかめた。

「何をぼーっとしている?」
「あ、れ、タナトスは?」
「はあ?」

顔をしかめたデッちゃんにはっとする。

今のは、夢?こちらが現実?「行くぞ」そう言ったデッちゃんの後を追いながら周囲に視線をやる。新緑の木々、吹き抜ける風、夕焼け、聖域。頬をなぜた風に確信する。こちらが現実、だ。

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