すぐに追いついたなまえの小さな背後に一瞬迷う。
私は彼女を追いかけてどうするつもりだった?何を考えているのかは知らないが、なまえの意思で私から距離を置いているのだとしたら無理に追いかけるのは得策ではない。
けれど、私にはその理由がわからなかった。

だから、そのわけが知りたい。
というのは実際には言い訳でなまえと前のように話したかっただけなのかもしれない。自分の中にある、どうしようもない感情を整理するためにもそうするべきなのだ。

そして覚悟を決めて彼女の名前を、彼女に対して久しぶりに呼ぶ。


「なまえ」

後ろから細い腕をつかんだ。立ち止まったなまえはこちらを振り向かない。

「なまえ」
「…な、に?」

ぼそりした返事はしてくれたが、やはりこちらを見ようとしないなまえに小さく息をついて口を開いた。

「…何故私を避ける?」
「………」

恐らくその質問に対する返事はないだろうことは想像していたから動じることなくすぐに言葉を続ける。

「何か、不愉快なことをしてしまったのならば謝ろう」

なまえの肩が小さく揺れる。
それが何か彼女の中の心境の変化を表すのか、それとも別の何か、例えば不快を示すものなのかはわからない。

しばらくそうして、黙り込んだままのなまえに仕方なく別の言葉を投げかけた。

「それとも、もう私と顔を合わせるのも嫌か」
「違う!」

私の腕を振り払うように勢いよく振り返ったなまえの琥珀色の目に自分が映りこむ。
なまえは眉を潜めて「それは違う」と再度繰り返し私を見上げると顔を歪めた。

「ごめん、勝手なことをしているのは分かっているの」
「…いや、しかし…」

私の言葉を遮るように首を振った彼女がその顔に苦笑いを浮かべる。

「サガと会いたくないわけじゃない。そうじゃなくて、その…、色々心境の変化があって、まだ上手く自分で纏められていない、から…」
「………」
「気持ちが落ち着くまで少し、距離を置こうかなって思っていたんだけど…」

そこで言葉を切ったなまえが、私を見上げると眉を落とした。

「ごめん、勝手だったね」
「いいや、気にしなくていい。私こそなまえの気持ちも考えずすまなかった」

苦笑を浮かべてふと頭に浮かんだ疑問を口に出す。

「やはり、双子座の聖闘士として接した方が良かっただろうか」
「そんなことないよ!サガはサガだもん!そのままのサガが好きだよ!!」

すぐに拳を握ってそう言ったなまえに目が丸くなるのを感じた。
なまえはそんな私を見て、何かを勘違いしたのか顔を真っ赤にして手で覆った。

「や、ちが…、なんでもない、今のは忘れて…」
「それは残念だ」
「!」
「…なまえ、一つ聞きたいことがある」

からかい半分、本心半分で言った言葉になまえが真っ赤な顔で勢いよくこちらを見たことに少し笑いながら、彼女自身に新たな疑問の、そしてアイオロスの疑問にも似たそれの正体を訪ねることにした。

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