小さく息をついたとき、偶然アイオロスもその動作を行った。二人してため息をつく形になり、それに目を丸くしてこちらを見た彼がすぐに笑った。

「お前は13年たってもため息ばかりついているのか!そんなんだから幸せになれないんだぞ」
「ため息ばかりをついているつもりはない。アイオロス、お前こそため息をつくなど今日は大雨になるのではないか」

どういうことだと笑ったアイオロスが背伸びをしてすぐに背後に倒れこんだ。そのまま草原に転がって空を眺めたアイオロスが「雨が降りそうな雰囲気もない」と言う。

「言葉のあやだ」
「ああ、なるほど」

アイオロスはそうして分かっているのかわかっていないのか知らないが、それ以上の話を続けることをやめる。その隣でまた小さく息をついて候補生たちの訓練を眺めた。今の攻撃は腕の振りが甘い。


「サガ、黄金の短剣型の雲が…」
「…私の古傷を抉るのがそんなに楽しいか」
「冗談に決まっているだろう!」
「TPOを弁えろ」

隣で転がるアイオロスの頭に拳骨を落とし頭を抱えた。


黄金の短剣型の雲のことではない。ぐさりと胸に突き刺さったのも気のせいではないだろうが、今はともかくそれよりも気になることがある。


最近なまえにあからさまに避けられている気がする。

それどころか顔を合わせることすらほとんどなくなった。恐らく小宇宙で私の位置を把握して居合わせないように移動しているのだと思うが、その理由が思い当たらない。


何か、嫌われるようなことをしただろうか?

いや、それとも自分が必要以上に彼女の姿を探してしまっているのではないか?そうなると原因は私にある。その理由は単純で複雑なものだ。
人を愛すると我儘になりそして本来の目的を見誤るようになってしまう。

このようにはなりたくなかったのだが、そうはいっても簡単に諦めることができないのが問題だ。

そしてなまえがニケであるということも問題である。

私は聖闘士として主の従神である彼女に恋慕の情など抱くべきではない。
人と神の違いは弁えるべきだ。

だが、それは分かっているのだが、という話になってしまう。
堂々巡りとはこのことだ。

その時転がっていたアイオロスが青い目をこちらに向けた。

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