「修行をしたいという貴女の意思を否定するつもりはありません」
「じゃあ、」
「しかし、逃げることを称賛する気にはなりませんよ」

それはつまり聖域でサガの傍にいろと言う事かと聞いた私に沙織は微笑んだ。

「運命を受け入れることは時に重要な意味を持つのです」
「…私がサガのことを好きになったのは、運命なの?」

それは、自分の意思ではないのかと食って掛かった私に沙織は口を閉ざした。「失言でしたね」すぐにそう言った彼女が息をつく。

「…もう少し、考えてみたらどうです?何もせっかく生まれた恋心を殺してしまう必要もないではないですか」
「だって、サガはきっと嫌がるだろうし…」

友達としても傍にいられなくなったら悲しいと続けた私に沙織は目を丸くした。

「何故サガが嫌がることが前提なのですか」
「だって私だよ!?こんな可愛げもへったくれもない女だよ!」

沙織みたいにかわいい子に好かれたら嬉しいだろうが、私みたいな女に好かれても誰も喜びやしない。

「なまえ、それは思い込みです!サガと貴女はとても親しいようですし、貴女が好きだと言えばサガも喜ぶでしょう」
「希望論だよ!」


私がそう声を上げた瞬間、部屋をノックされる。扉の向こうにいる人物の小宇宙を感じて背筋を汗が伝う。まさか、今の話を聞かれていないだろうな。

「お入りなさい」
「まって沙織!もし今の話聞かれていたら…っ!!」

そんな不安でいっぱいの私をそっちのけに扉は開かれ、サガが入ってくる。

「アテナ、なまえ、お食事の準備が整いましたゆえ、どうぞお集まりください」
「サガ、ちょうどいいところに…」
「は?」
「サガの話をしていたのですよ」
「私のですか?」

不思議そうな顔をした彼が私たちを見る。一瞬目が合いそうになって慌ててそらした。だめだ、彼の顔を見ると…、いや見なくてもそこにサガがいるというだけで顔が熱くなりそうだ!くそっ20過ぎた女がなんでこんなことで…!!

「ぐぁぁぁ…」

頭を抱えてソファに倒れこむ。

「なまえ!?」
「うふふ、彼女は今自己との格闘の最中なんですよ。見守ってあげましょう」

くすくすと笑った沙織が黄金の杖を片手に立ち上がった。

「なまえ、くれぐれも自分に素直におなりなさい。その道は決して悪いようにはならないでしょう。さあ、食事の時間ですよ」

そう笑った沙織に頷いて立ち上がる。未だ俯いたままの私に、サガが歩み寄ってきた。顔を覗き込まれ、青い目と視線が絡んだ瞬間、頬が熱くなる。

「大丈夫か、なまえ」
「も、問題ないですー!!」

そう言って結局その場から走りだし逃げるのだった。沙織がころころと笑う声が聞こえた。

(私には沙織の言うようにサガがこの気持ちを受け入れてくれるとは思えなかった)

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