「そうっそうだ!サガ禁止にしよう!サガ禁止、サガ禁!しばらく離れて考えないようにすれば落ち着くはずだよね!?だから私シベリアに行きます」
「離れる必要もないし、落ち着く必要もありません。なまえ、人を愛する気持ちを知るということはとても大切なことなのですよ」

薄い笑みを浮かべた沙織が黄金の杖をきゅっと握る。

「愛がなければ、人は人たり得ません」

「なんとなくわかるよ」そう私は遮った。彼女の言いたいことは、それなりに分かったけれど全てに納得いかなかったのも本当だ。大人になると少しひねくれるらしいことを私は感じた。
沙織はそれに少し黙り込むと話題を変えることにしたらしい。

「サガは、13年間の悩みを吹っ切ったようですね。それには貴女が関係している」
「私は…なにもしていないよ」
「謙遜はおよしなさい」

身を乗り出した沙織が、片手で私の髪を軽く撫でた。「貴女は知っている、それが私は嬉しい」そう言った沙織が私の顔を覗き込んで微笑んだ。

「人の罪というものは…、許されるべきものなのです。反省し、償いをすればどんな罪でも許される。そうでないのならなぜ人は生き続けるのです?過ちを犯さない人などいません。しかし永遠とそれを罰される必要もないのです。人は罪を償うために生き、成長するのです。未来とはそのためにある」

その未来を棒に振るような使い方は確かに悪であるが、すべてを理解し過ちを正そうとする人間の姿は美しく好ましいものだと言った沙織が言った。

「誰も彼も本当の意味では悪くないのです」

私は頭を振った。
沙織が微笑んだまま、言いたいことがあるなら言ってくれと目で告げてきた。

「誰も悪くないっていうのには私も同感だよ、…でも、誰も悪くないのに、どうして悩んだり苦しんだりする人がいるんだろうね?」
「誰も悪くないからこそ、ですよ。なまえ、誰も悪くないことを私たちは知っているからこそつらいのです」


誰も悪くない。

恐らくサガたちと沙織たちの戦いもその言葉で表されたはずだ。そう、誰も悪くなかった。けれど、それでも否定されるべき悪がまったくないとも思えないのだ。全ては価値観。それでもこの間紫龍君が言っていたように、否定される考えというものは確かに存在する。

そう私が考えたのを感じ取ったらしい沙織が笑みを引っ込めて頷く。

「確かに金銭や己の利益を目的に人を殺めたり陥れたりしてはいけませんし、同時に私たちは力のない女子を弄ぶべきではありません。道徳は社会の中で創造されます。…この話の結論を今日出すことはできないでしょう」
「…すべては価値観という私の考えは間違っている?」
「それもまた価値観です」
「…じゃあ、正解はないってことで良いんじゃないかな?」
「それもまた、価値観です。なまえ、無理に答えをだす必要はないのですよ。私たちは時に受け入れることも必要なのです」
「受け入れることと放棄することは違うよ」
「ええ、ええ、そこまで分かっているのなら、貴女は自分で答えを見つけることができるでしょう」

そこで沙織が言葉をきる。
大きくそれた話題をはじめのところに戻すことにしたらしい。

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