とりあえず適当に昼食を作り上げて机に運ぶ。なまえとシュラがそれを手伝い、あっという間に机の上に料理が並んだ。
席について昼食を取り始めるが、今日は珍しく妙な雰囲気が漂っていた。正確にはここ最近ずっとの話なのだが、なまえとサガが妙に余所余所しい。
「…なんなんだよ、お前ら?」
隣に座ったわりにはそわそわそわそわとしていて、はっきり言って煩わしい。
そう声をかければ、二人は何のことだと言って俺を見る。
「そわそわそわそわウザったい!落ち着かねえなら席を変えろ」
「そんなことないよ!そうじゃないんだよ」
なまえが首を振って下手なつくり笑顔を顔に浮かべた。
「ね、サガ!…あ、えっと…それから、その、今日は…良い天気だすね」
「ああ…、そうだな」
「おい、今日は雨だぞ、馬鹿女」
「それからなまえ、だすねってなんだ?」
二人ともぼんやりとしながら適当なことを言っているのは目に見えている。
そもそもきちんと俺の話を聞いていたのかさえ疑わしい。シュラの疑問をなまえは華麗にスルーしてみせた。人の宮にまで食事を食べに来ておいてその態度はなんだと頭を抱える俺の横でアフロディーテが笑う。
そして奴が口を開いた。
「塩を取ってくれないか?」
その言葉になまえとサガがすぐに塩に手を伸ばし指先が触れる。瞬間二人で手を引っ込めた。
「ご、ごめ…!」
「すまない、」
なまえが顔を赤くして指先を抑えれば、サガも目をそらして気まずそうに口をつぐんだ。
それに大体の状況は把握したが、理解できない。わざわざ人の宮にまで来て何を見せびらかしているんだ、この二人は!!
「あっ、私みんなにお茶淹れてくるね!!」
それだけ言うとなまえが立ち上がり奥に駆けて行った。サガもすぐに立ち上がり「手伝おう」と言って後を追う。アフロディーテがとうとう耐え切れないとばかりにけらけらと笑った。
「あっはっは…!!あの二人はいつの間にあんな状況になっていたんだい?随分と奇妙な方向に発展しているな」
しばらく任務に出ていたためまったく状況についていけないといったアフロディーテにシュラがスプーンを口に運びながら言った。
「そうだな、俺の知る限りではもう一か月はあの状態だ」
シュラのその言葉とほぼ同時になまえが顔を真っ赤にして奥から走って戻ってくる。
「わ、私!双児宮まで茶葉取りに行ってくるから!」
「ああ、ごゆっくり」
微笑んでひらひらと手を振ったアフロディーテになまえは少しだけ表情を緩ませるとそのまま赤い頬を抑えて走って行った。なまえがいなくなったことを確認したアフロディーテが腹を抱えて震えながら机に倒れこむ。
その横で頭を抱えた。
「何なんだ、あの二人?本当なんなんだ、人の宮で恥ずかし青春の甘酸っぱいラブコメを披露するのがそんなに楽しいのか?」
「だ、だから面白いんじゃないか!あのサガが…!ふっふふふ…!想像できたかい、あの教皇宮で仮面で顔を隠してこの私たちを顎で使ったあの男と、勝利の女神が青春の甘酸っぱいラブコメディを披露してくれているなんて!」
これを笑わずしてどうしろというのだと言ったアフロディーテの隣で黙々と食事を続けていたシュラも頷く。
「国家どころか国際的な希少価値のあるものとして認定されても不思議ではあるまい」
結局なまえが茶葉を持って戻ってきたのはそれから一時間ほどたってからで、サガが奥から戻ってきたのも大体同じくらいの時間だった。
(高々食後の紅茶に一体何をしていたのか)
「…赤くなった頬を冷ましていたのではないか?」
そう耳打ちしたアフロディーテに、真っ赤になったなまえを想像する。別に珍しいものではない。だが、真っ赤な頬のサガを想像して些か気分が悪くなり一気に覚めた紅茶を喉に流し込んだ。
(いい年して何をやっているんだ、こいつらは!)
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