金髪の白い翼をもった女性、それはニケだったのだと思う。

彼女の目が初めてこちらを向いた。それはたくさんの夢の先にあった一番初めの変化だった。

それまでの夢は、言うなればニケの記憶。
だが、今の彼女はまっすぐに私を見ていた。私に彼女が手を伸ばす。

白く細いその手を取れば、彼女が手に力を込めた。ぎゅっと握られた手は冷たさも暖かさもまるで感じられなかった。けれど、彼女の纏う雰囲気や気配を私は知っていた。
いつも、傍に感じていた。
気づかなかったけれど、ニケはきっと、ずっと私の傍にいた。
私の傍、そしてアテナの傍にずっといた。


私たちは、その穏やかな目で、ずっと見守られていたのかもしれない。

同じ時代に生きたことのないはずの私をニケは、まっすぐに見た。

彼女が口を開く。
女神の甘い声が響いた。

「なまえ」

彼女が私の名前を呼ぶ。
穏やかな彼女の顔が、少しだけ微笑む。

「なまえ」

彼女の手が私の頬に伸びた。
青く澄んだ瞳を見つめ返す。

「どうか、私を…」


そこで目が覚めた。

ニケの言葉を最後まで聞くことはできなかった。彼女は何を言いかけたのだろうとぼんやりと考えながら、白い天井をしばらく転がったまま眺める。
やがて部屋にやってきた女官さんが朝だと言って私からシーツを剥がした。


「寒い!!」
「でしたら早く着替えてくださいませ!外は良いお天気で暖かいですわ!!」

着替えを手渡されて寝台から仕方なく降りる。
(ニケは、何を言いかけたんだろう?)

それは、答えの出ない疑問だった。

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