「しーりゅうっくん」
こちらに背を向けていた紫龍君に後ろから目隠しをして名前を呼んだ。
「だーれだ!」
この間の瞬君のマネである。だが、彼は何も動じることなく「ニケ」と答えて見せた。
「答えるの早いね…」
「小宇宙です」
「やられた、その手があったか」
けらけらと笑いながら振り返った彼に何をしているのか尋ねた。彼は競技場の方を眺め、候補生の修行の見学をしていたのだと言った。
「おっと邪魔してごめんよ。紫龍君はやらないの?」
「先ほどまでやっていましたが、やはり俺たちが暴れていると候補生の邪魔になるだろうということで」
「なるほどなるほど、ってことは今暇?」
そう聞いた私に紫龍君が頷いた。それに私も頷いて見せれば、彼は訝しげに眉を寄せた。
「なんです?」
「そんな暇な紫龍君も一緒に夕飯どう?」
まだ少し早いが、そろそろ暗くなるしちょうどいいだろうと言った私に彼はきょとんとして目を丸くした。
「食事?」
「うん、あ、他にデッちゃんとシュラとアフロディーテも来るんだよ」
「あの三人と…」
奇妙な面子だといった紫龍君に首をかしげる。
聖域ではあの三人はいつも一緒にいるから奇妙とは思わなかったが、彼からするとそうらしい。
紫龍君は頭をかいて私を見る。
「その、余計なことかもしれませんが、ニケ、デスマスクのように正義にほど遠い男となぜ?」
「正義にほど遠い?」
またこの話か、と思ったのが正直なところだった。聖域の人は皆正義やら悪やらと言った話が好きだ。だが生憎私にはそれが理解できそうにもない。
「決まった正義も悪もないから、私はそう思わないな」
「え?」
「まあ、これも私の価値観だから否定されることもあるんだろうね。けれどその否定もまたその人の価値なんだって私は思う」
全部価値観、それが私の考えかなと笑えば紫龍君は目を丸くした。
だがすぐに彼は首を振って私を見る。
「しかし、誰にでも否定される考えというものはあるでしょう」
「だからお前らはガキなんだ」
「ううっ」
突然どっしりと体重をかけられて前のめりになる。この声はデッちゃんかと言いたかったが私は体が硬い。前のめりになりすぎると声も出せなくなるのだ。とりあえず今何かいう事が出来るのだとしたらこれを伝えたい、苦しい。
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