サガにも少し相談してみようか。彼も13年間この問題と直面してきたのだろうからきっと良い相談相手となってくれるだろう。
そうだ、とりあえず後で彼を呼びにやろう。しかし、相談しただけで問題が解決するのなら、そもそも問題にすらなっていないはずだ。

「お嬢様、聖闘士たちを外に働きに出したらどうです?」
「外ではこの場所の常識は通用しません」

軍事関係の仕事を彼らにさせるわけにはいかない。絶対にそこだけは譲ることのできない問題だ。それに彼らに重火器が扱えるのだろうか?無理だ。それ以前に、武器を聖闘士に持たせるなんてしたくない。

では土木関係?工事現場を逆に破壊してしまいかねない。
IT関連の仕事などそれこそ絶望的だ。


「…ともかく外の仕事はできないでしょう。私がなんとかしなければ」


ちらりと、辰巳が持ってきたグラード財団の書類を見る。
財団のマークの添えられたその書類を手に取る。

グラード財団は世界屈指の財力を持つ巨大な企業だ。今もなお成長し続けている企業。この不況にあっても黒字を伸ばし続けている。この財団の資財を使えばあるいは聖域も、と思う。


しかし、それは許されないのではないだろうか。


「グラード財団のものは全てお爺様のものです」

私のものではない。
彼が人生をかけて培った大切な会社、そして財産。

だから私はそれを聖域に使うことができないでいる。
しかし、と考えて首を振った。

お爺様は私を育ててくれた。それこそ自分の人生も顧みず、私のために尽力してくれた人間だ。そんな彼が残したものを私の意思で好きにしていいとは思えない。
彼はもう十分にやってくれたのだ。
彼の残した遺品までも好き勝手に使う権利など私は持たない。

「もう少し、何か考えたほうが良いのかもしれません…」
「…お嬢様、光政様は常々言っておられました。貴女のために生きるのだと。それはもはやあの方の生きがいでした。貴女の為さりたいようにする、それがあの方のためにもなるのです」
「辰巳…」


目を閉じて、祖父の姿を思い出す。

いつだって優しかったお爺様。
私のためにすべてを投げ出してくれたお爺様。
沙織として愛し、アテナとして敬愛する人間。

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