口早にそう言い切ったアンドロメダが微笑んだ。

「僕には貴方を否定する権利を持たないし、貴方を否定し納得させるだけの正義なんて持っていない。けど、これが僕の正義なんです」
「それを私に言ってどうするつもりだ」
「貴方は、僕みたいなやつに仲間扱いされるのは嫌かもしれない。でも僕は貴方を同じ地上のために戦う仲間だと思っているんです。それだけ、分かってもらいたくて」


それだけ言うと、アンドロメダはもうこちらを振り向くことなく教皇宮へ駆けて行った。

それを見送り石壁の上でごろりと転がる。何の気なしに取り出した薔薇を周囲に抛った。

なるほど、女神女神と盲信するだけのアテナ信者かと思っていれば、どうもそういうわけでもないらしい。
地上のために戦う、というのなら私はそれを否定するつもりはない。それはよくアテナのために戦う事と同義語とされるが、真の意味でそれは遥かに遠く及ばない別の目的なのだから、私はそれを否定するつもりはなかった。

ふと顔を覗きこまれる。
空はすでに暗くなり始め、所々で星が輝いていた。

そんな空を背後に、シュラが狭い石壁の上で私を覗き込んでいた。

「…アフロディーテ?おい、薔薇まみれになっているぞ。倒れているのかと思ったが何をしているんだ」
「…たかが青銅、少女の顔をした非力なヒヨコかと思っていれば」

呟いた言葉に、シュラは意味が分からないと言ったように眉を潜めた。
そんな彼に笑いかけて起き上がる。ひどく気分が良かった。

「シュラ、夕飯でも食べていくかい。馳走してやろう」
「…お前がそんな親切なことを言うなど気味が悪いな、何をたくらんでいる?」
「その余計なことばかりいう口を封じるために魔宮薔薇を詰めた山羊肉でも出してやろうかと今思ったところだ」

そう言って薔薇を手に取れば、シュラは目つきの悪い顔をさらに顰めさせた。子供に見せたら泣き出しそうだなんて考えてくつくつと笑いながら立ち上がる。


「冗談だ。久しぶりに昔のように語らおうじゃないか」

シュラは、それに関してはもう何も言わず大人しくついてきた。
どうやら夕飯を食べて行くことにしたらしい。

5/5