薔薇の世話が終わり、石壁の上から薔薇園を見渡す。やり残したことはないことを確認し、石壁に腰かけた。広い空の下で真っ赤に咲き誇る薔薇は自分で育てたものだが見事なものだと思う。
そこにアルトの声が響いた。
「アフロディーテ!」
向こうからかけてきて、石壁の下で足を止めたなまえとアンドロメダが私を見上げて笑う。
「良い天気だね!」
「ああ、そうだな」
返事をしただけなのに、なまえは嬉しそうに笑って手に持っていた袋から瓶を取り出して私に向かって手を伸ばした。石壁に腰かけたままそれを受け取る。
「あのね、ロドリオ村でバターを作ってきたからアフロディーテにもおすそ分け!」
「ありがとう、使わせてもらおう」
「初めてバター作ったよ」
そう言った彼女が二の腕を抑える。明日は絶対に筋肉痛だといったなまえが肩を竦めた。
「作るのは嫌いだったかい」
「ううん!楽しかったよね、瞬君!」
「そうですね、なまえさん」
どうやらアンドロメダと二人でロドリオ村に行っていたらしい。
一体いつの間に親しくなったのかは知らないが、二人でにこにこと笑いあう姿は年の離れた兄弟のようにも見えた。
そんななまえがふと私を見て小首をかしげる。
「アフロディーテはそんなところで何をしているの?」
「ここから見える夕日はとても美しいから」
「…夕日?」
そう言った彼女に太陽が沈みかけている方向を指さす。まだ明るいが、もう少ししたら空と大地が太陽に赤く染め上げられることだろうそれを見た彼女が顔を青くしてこちらを見た。
「…い、今何時?」
「四時半だが」
「やっば…!!沙織に呼ばれているんだった!!ごめんね、アフロディーテ、瞬君!先に戻ってる!!」
そう言ってバタバタとあっという間に駆けて行ったなまえに苦笑する。
「相変わらず忙しい女性だ」
誰につぶやいたわけでもなかったが、この場に残ったアンドロメダがくすりと笑って頷いた。
そんなアンドロメダは私を見上げると微笑んだまま訪ねてくる。
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