「うっ…」
シエスタから目をさまし、のそりとソファの上で動いた私を見た沙織がくすりと笑う。

「なんでしたか…、映画の…井戸から這いずって出てくる女性のようですよ、なまえ」
「その場合はゴキブリホイホイとネズミ取り器で撃退できると思うよ」

紅茶を淹れようといった彼女にお礼を言ってソファに背中を預ける。ああ、頭が痛い。少し眠りすぎたかもしれない。
軽く痛む頭を押さえて、こちらに背中を向けてカチャカチャと茶の準備をしている沙織の背中に呼びかけた。

先ほどの夢が、なんだか妙に気になった。


「沙織ー」

ごろりとソファに横になって間延びした声で沙織を呼ぶ。

「なんですか、なまえ」
「ニケってさー、金髪だった?」

その質問に彼女が動きを止めた。

「…何故です」
「え…、違う?」

あの金髪の女性を勝手にニケだと思い込んでいたのだが、違うのだろうか。そう首をかしげた私を振り返った沙織はしばらく何とも言えない顔をしていたがやがて頷いた。


「ニケは、金髪と美しい空色の瞳の有翼の女神でした」


それがどうかしたのかと落ち着き払った様子で尋ねてきた沙織と目が合う。

不信と喜びが混ざったような、不思議な輝きを持ったそれをまっすぐに見つめ返す。

「夢で見るんだ、…知らない男の人と仲良く話している金髪の人。雰囲気から私が勝手にニケかなって思っているんだけれど…」
「続けてください」
「でも、今日の夢では喧嘩していたから、少し気になって。…あれ、本当にニケ?」
「…ええ、…ニケでしょう。その男性は?」
「金髪と青い目の、…誰だろ」

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