大量の贈り物を持って自宮に戻る。空は晴天で、なんとも気分が良い。その理由は恐らく晴天だけではなく今日という日にある。
誕生日。23にもなっていちいちそんなことを楽しむつもりはないが、それでも毎年のように騒ぐ悪友たちからの贈り物は嫌いではなかった。

それだけではない。今年はなまえ、そして偶然聖域に来ていた紫龍までもが祝ってくれた。喜ばしいことだ。そう考えて磨羯宮に入ろうとしたときのことだった。

「シュラ!」

そう言って駆けてきたのは射手座の黄金聖闘士アイオロスだった。きっちりと聖衣を着込んだ彼が俺のもとまで歩み寄ってくると太陽のような笑みを浮かべる。


「シュラ!良かった、探していたんだ」
「俺に何か用か」

珍しいこともあるものだとアイオロスに向き直る。かと思えば突然投げて渡されたワインのボトルの意味が分からず眉を潜めれば、アイオロスは昔と変わらない明るい笑みを浮かべた。

「誕生日おめでとう!」
「あ、ああ、…ありがとう」

これだけ伝えたくてな、と言った彼に少し頭が真っ白になる。すぐに意識を現実に向けなおして答えたが、アイオロスは気が付いたらしい。腕を組んで首をかしげた。

「どうした?」
「いや…よく、祝えるものだな。俺のことを」

お前から13年間を奪った。


俺はそれを後悔していない。

アイオロスの後を追った俺に、何も真実は語られなかった。
昔、まだ俺が子供だったころ、アイオロスはよく修行をつけてくれたし、少し乱雑なところはあったが聖闘士として申し分のない実力を持っていた。
先輩として、友人として、男として、頼れる人間だと思っていた。

だが、そう思っていたのは俺だけだったのだろうか。

アイオロスは、俺に何も語らなかった。そして俺はアイオロスを聖剣で斬る。あの夜のことを俺はよく覚えている。斬りつけた時のこと、声、顔を顰めて、それでも赤ん坊を放さなかったアイオロス。

“逆賊”の、その姿を俺は13年間忘れなかった。

後悔ではない。教皇の言葉はすなわち女神の意思だ。俺は聖闘士としてそれに従った。
あの時山羊座の聖闘士にできたのは唯一逆賊の討伐だけだった。聖域に戻り、教皇の正体を知った。アイオロスが連れて逃げた赤ん坊こそが女神であったということも知った。聖闘士ならば、きっとその行いを恥じそして後悔し罪を償おうとしたのだろう。


だが、どうだ。

女神はアイオロスを救えなかった。
ただこの男の腕の中に抱かれ、守られることしかできなかった。

何故、アイオロスはそんな女神を命を賭して守ったのか?そんなことは俺には分からなかった。13年間ずっと、理解できなかったしすることもないのだろうと思っていた。

だがともかく、そのような力の無い女神に従う気など、俺には毛頭なかった。
力がすべてだ。守られることしかできない存在にどうして地上の平和が守れるだろうか?そこから導き出された結論から俺が取るべき行動は決まっていた。

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