ばたばたと巨蟹宮に駆け込んで、見つけたデッちゃんの背中に叫ぶ。

「デッちゃん、大変!野菜炒めを作ろうと思ったら火柱が上がって野菜が消し炭になっちゃった!」
「油の使いすぎだろ」

振り返った彼が呆れたような顔をして私を見た。
シャツ姿の彼が頬についた白いものをぬぐう。クリームか何からしい。彼の手先を覗けばホールのケーキに飾りつけをしているところだった。

「…パティシエごっこ?」
「なんで俺がそんな悍ましいごっこ遊びをしなきゃいけねえんだよ」

そもそも俺はそこらのパティシエより格上だとかなんとか胸を張って言ったデッちゃんに「ふーん」と返すと彼は顔を顰めて私を見た。さっと目をそらした私に彼はしばらくそのまま私を見ていたが、やがてケーキに視線を戻すと口を開いた。


「シュラの誕生日なんだよ、今日」
「ええ!?聞いてないよ!そっか、誕生日か…!」

シュラとは出会えば話をするし、たまに彼からも声をかけてくれる。
それに以前夕立にやられた時に親切にしてくれた人だ。誕生日なら何か祝うべきなのだろうが…、まったく誕生日だということを知らなかったせいで、何も準備していない。

ふと目があったデッちゃんに首をかしげる。

「…どうしよう?」
「…苺でも切ってろ、なまえ」
「はーい!」

とりあえずケーキを作ってやったってことになるだろと言ったデッちゃんの好意に甘えて苺を切るのを手伝う。果物ナイフを受け取って葉っぱを切り綺麗な布巾の上に並べていく。
隣ではデッちゃんがずいぶんと器用に生クリームでデコレートを進めていた。うん、確かにそこらのパティシエよりは上手かもしれない。

「さっすがデッちゃん!」
「やっと俺のすごさが分かったか、なまえ」
「そっかー、シュラ誕生日かー」
「いや聞けよ、俺の話を」
「そうだなー、何か誕生日プレゼント…。スペイン国旗のマグカップとか?」
「好きにしとけ」

鼻で笑ってそう言ったデッちゃんが私の切った苺をつまんだとき、扉からアフロディーテが顔をのぞかせて微笑んだ。

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