「貴女は、こちらに来るのは初めてですね」
「いや、本当は二回目なんだ…、この子はどこか悪いの?」
「さあ…、悪いと言えば悪いのかもしれませんが、そうでないのかもしれません」

私にはよく分からないと言った彼女が少年の頭をなでる。慈愛に満ちた目を彼に向けた彼女が、やがて私を見た。

「星華です」
「私はなまえ」

手を差し出してくれた彼女に私も手を差し出す。握手をした彼女が日本人かと尋ねてきたのに頷く。

「ここは外国の方ばかりですから、同郷の方に会うとなんだか安心しますね」
「あはは、なんか分かるな、それ」

くすくすと笑った彼女が少年の頭を撫でて「この子は星矢、私の弟です」と言って微笑んだ。

「星矢…」

どこかで聞いた。

星矢、星矢。


そうだ、瞬君や沙織がよく口に出す名前だ。
この子が星矢君だったのか。確かに彼女たちと同じくらいの年のようだ。

「今日はたくさんの人がこの子の様子を見に来てくれて。きっと星矢も喜んでいます」

恐らく瞬君たちもここを訪れたのだろう。
年も近そうだし、友人か何かだろう。星矢君は眠ってはいるが快活そうな顔をしている。星華ちゃんはどこが悪いのか分からないと言った。(というより悪いのかさえ分からないと)

「ずっと眠っているの?」
「ええ…、早く目を覚ましてもらいたいんですが…」

薔薇から一枚花弁が散る。星華ちゃんがそれをつまんだ。

「綺麗な薔薇をありがとうございます。魚座さんにもお伝えください」
「うん、分かったよ」

兄弟の仲に長居をするのも無粋だろうとそろそろ去ることにする。
その旨を伝えれば、彼女は微笑んで「また来てやってください」と言って私を見た。私は彼と直接面識があるわけではないのだが、それでも良いかと聞けば星華ちゃんは花のような笑みを浮かべて頷く。


「うん、分かった!また来るね、今度は私もお見舞いにお花を持ってくるよ」
「ふふ、ありがとうございます。きっと星矢も喜びます」

そんなことを話しながら、最後に星矢君に歩み寄った。あどけない少年の顔。

「早く目が覚めると良いね」
撫でた髪は柔らかい少年のものだった。(起きる気配は、感じられない)

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